小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

そして、池上線3

西崎はチラシを受け取るや、「みどりも座ってなさい」と少しからだをずらし、 ソファーを空けた。 「え。。」と、みどりと呼ばれた新人は、一瞬、躊躇していたが 「失礼します」と西崎の横に座った。 視線が合うとピョコンと頭を下げた。 名刺を差し出し「あどうも佐伯です。グリーンのみどりさん?」 つい口に出た。すると

「あ、いえ。。。。」どう説明すればよいやら、困った顔を西崎に向けた。 「ぷ。モリシマミドリ。。。先月からウチに」 西崎は携帯を取り出し、画面を向けて見せた。

森島碧

「なるほど、こりゃあ説明しづらい筈だ。けど文学的な良い名前ですね」 「でしょう、まったく同じこと感じたわ。て言うか、嫉妬さえ」 西崎は笑ったが、森島碧は恥ずかしそうに下を向いたままだった。

「で、これこれ。相談というのがこれ。どう?」 ようやくチラシを差し出してきた。 「あ、どうも」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ お手伝い致します あなたの想い出探し。 例えば・・・・初恋の人に 逢ってみたいと思いませんか。

忙しいあなたに代わって、 想い出探しの お手伝い。。。

秘密厳守

プチ探偵事務所 大田区南雪谷1ー※※ー※ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

(初恋。。。) どくん、と胸を打つものがあった。 ここ数年、仕事に振り回され、すっかり忘れていた言葉だった。 「なるほどね。初恋。。。1丁目。。。駅前ビル。近くですね」 「この前、受け取ったティッシュに挟んであったのこれ。 見た瞬間、ビビっと走るものがあったわ」 「なるほど、次のテーマは初恋。。。」

そもそも西崎とも代は、少女と中年男との心中未遂事件を題材にした作品で、 芥川賞デビューを果たしたのだったが、 二作目は、恋愛とは無縁な、とある社会的事件をヒントにした小説。 これがいきなりのヒット。さらに映画化、ドラマ化もされる程の社会的反響を呼んだのだった。 以来、すっかり硬派なイメージが西崎に定着。 作品の内容も社会的事件を題材にした作品が主となっていたのだった。

ここらで路線変更? ま、それも悪くはないか・・・・

しかし。。。

しかしと思う。相談とはこんなこと?

やや拍子抜けの感もあったが ま、我が社に出稿してくれるなら、ありがたい話だと思った。

「ま、人類男女を問わず、普遍的なテーマだし、いいんじゃないですか?」

西崎は身を乗り出し 「本当に?」 「ええ。。。。」 「後悔は、なさらない?」 「もちろんです。我が社から出させてくれるなら、何でも協力させてもらいます」 「その言葉を待ってましたの」

「は?」

「じゃあお願い。さっそく依頼に行って欲しいの。佐伯社長の 想い出探し。。。。」

「はあ!?」

つづく

今更ながら、言うまでもありませんが、当記事はフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。