「じゃあお願い。さっそく依頼に行って欲しいの。佐伯社長の 想い出探し。。。。」
「はあ!?」 「はあ。。。それはないでしょ」 少しトゲのある西崎の言葉だったが、眼は笑っている。 「え、まぁ。ですが・・・・・」 いきなり初恋の相手捜しと云われても。。。
このあと、待望の2作目となる本の営業に、蒲田にある大型書店にアポを入れていた。
それに。。。
帰宅後、待ち構えてる段ボールの山が浮かんだ。 文芸新春時代の後輩から頼まれた応募作品の”下読み”内職。。。 少し暗い影がよぎり、胃のあたりがギュっとなった。 今夜じゅうに、一次通過を10作品選ぶことになっている。。。。
「いくら先生の頼みと仰られても。。。。やはりその。いきなりなアレなものですから。。 いや、やはりそのぅ。。。」
すると 「ほらみどり、言ったじゃん、やはり無理、無理。最初からわかってんでしょ。この企画。ボツ。ボツ。」 西崎は、ふてくさった表情で、ズッズッと音をたてコーヒーをすすった。 「え。でも先生。。。。。」 言われた碧は、何かを言い返そうと、西崎を見つめたが、結局黙り込んでしまった。
気まずい空気が流れる。。。
初恋。。。。か。 このままボツと言うのも、惜しい。
「あ、先生。ま。待ってください。」 「何よ」 「ですから・・・・急にはアレですが、少しお時間さえ」
「はあ!?時間てなによ」
「いえ、ですからすこし、お時間さえ頂戴すれば・・・」
「頂戴すれば、どうにかなるとでも?」
「えぇ、ですから少し考える余裕とか。」 「何を考えると言うの?」 「ですから初恋の相手のこととか」 「あー」 「え?」 「まさか、今の奥様が初恋の相手だったって、野暮なこと言うんじゃないでしょうね」 「いくらなんでも、それは」 「でしょうね、で、時間てどれぐらいよ。5時間ぐらい?」 「それは。。。いくらなんでも。。。せめて一週間。」 「はあ!?」 「あ、いや3日。せめて3日ください」 「本当に?」 「えぇ。3日。3日さえあれば。なんとか」
すると、あーははは。 突然、西崎は両手を叩きながら笑い 「ほ。ほらみどり、言った通りでしょ、あーははは。く、苦しい」 しばらく腹を抱え、笑い転げた。 さっきまでうつむいていた筈の新人も、 満面の笑顔で「ですね先生。さすが先生。イっエーイ」と返した。
「え」
「あ、ごめんなさい。すっかり安心しました」 「はあ!?」
「だって昔のまんまですもの。顔にすぐ出るし、小芝居を真に受けてくださったり。。。」
「え、。。。」
つづく
今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。