小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

そして、池上線11

何かを秘めたような、その瞳が かッと見開きこちらを見つめていたが みるみる泪が溢れ出し、しまいには声を上げ彼女は泣き出してしまった。

「あ、え。。。。」 どうしたの急に、大丈夫?と、声をかけたが 俯いたまま、かぶりを振るだけだった。 それ以上言葉をかけられず、私も黙りこんでしまった。 いつの間にか、池には幾つかのボートが浮かんでいた。 頭上の満開の桜が、なぜか憎らしく思えた。

(まいったなぁ、こう言うのって、一番苦手・・・)

森島碧は、しばらく両手で顔を覆い、泣き続けていたが

「すみません、施設。。。」 と、ようやく顔を上げた。 「あ、えぇ」 「児童養護施設だったんです。藤沢市の」 「ほーう藤沢の。。。」 あ、と思い出すものがあった。 他の出版社だったが、西崎とも代が児童虐待をテーマに書いた小説、 確かモデルは藤沢市の、虐待された児童だけを保護する施設。 言わば現代の駆け込み寺。

「え、じゃあ君も。。。」

彼女は悲しげな眼でコクりと頷き、突き上げるものがあったのだろう。 うなだれたまま、また泣き始めた。

 

ふいに彼女の 応募作品、その一節が甦った。。。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 清楚で白い百合の花。だが私はこの花が嫌いだ。 可憐、あるいは清楚、美しい薫り。。と人々は白百合を愛する。

 

けれど私には悲しい記憶しかない。

 

唯一この私をかばい続けた祖母。 唯一この私を育ててくれた祖母・・・ それなのに

 

やがて、線香とロウソクだけの小さな部屋。 純白の布で覆われた棺。。。 横たわる祖母を覆い尽くした”白い花”。

 

その哀しい記憶だけが今でも蘇る。。。 そして 本当の悲しみはそこで終わりではなく

始まりだった。。。

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空想でも、創作でもない、真実の魂の叫びだったことに さらなる衝撃を受けたのだった。

その日の夕方。 西崎とも代がいきなりやってきたのは、 宅配便の集荷時間を気にしながら、 荷造り・発送仕事をしている時だった。

 

洗足池

 

つづく

今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。