小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

そして、池上線12

その日の夕方。 西崎とも代がいきなりやってきたのは、 宅配便の集荷時間を気にしながら、 荷造り・発送仕事をしている時だった。

「あ。」 「何が、あっよ。ちょっとイイ?」 「あ、どうぞどうぞ」 西崎がいきなりやってきた理由。勿論わかっていた。 あれから。。。 森島碧がようやく落ち着いた頃を見計らい、 タクシーで西崎事務所まで送り届けたのだが、泣き顔は簡単には隠せなかったろう。 「しかし、ここ、よくわかりましたね」 どう言い訳をしたものか・・・・ 西崎の顔色を伺いながら応接スペースに案内する。 「そりゃ。。。あ、」 「え?」 「うわー東京タワーまともじゃん、やっぱ最高な眺めだわココ」

西崎はソファーに座ろうともせず、窓側に立ったままだった。 壁の時計を見やる。宅配便・・・・・・

「すこしだけごめん、作業の途中だったもんで」 作業机を指差した。 「あ、ごめん、ごめん。そのまま続けちゃってて」 ん? 思いのほか、西崎の機嫌は良さそうだ。 じゃあと、荷造り作業に取り掛かる。 5冊ごとに、まずクッション入りのエアーマットで包み込み、 さらにクラフト紙で包むのだが、エアーマットの膨らみで、 思うように紙の折り目が決まらない。 「ふーんどれどれ」 西崎は、珍しいものでも見るかの表情で、近づいてきたが 「ちょ、ちょっ。何よその手つき、ちょっとどいて見て」 「え、でも」 「いいから」 押しのけるように正面に立つや、鮮やかな手つきでクラフト紙を包み始めた。 「先にこう上側を折った方が線が決まるの」 「えぇ」 「次、左側から対角線を作るつもりで織り込んだら、つぎ右側からも」 「えぇ」 「下側からは、こう折り込みながら上へ持ってく。するとピシッと三角形が決まる」 「なるほど」 西崎は、あっと言う間に仕上げてしまった。 エアーマットのふわふわな膨らみにもかかわらず、 折り目は直線で決まっていた。   ※ 「おかげで間に合いました。」 どうぞと、ウーロン茶のカップを置き、ソファーに座る。 さあ。もう覚悟は出来た。下手な弁解はするまい。 「しっかしまあ、自分でも驚きだわ」 「は?」 「あ、いえ。20年ぶりだったけど、手が勝手に動くもんだわさ」 「20年ぶり?今の?」 鮮やかな手つきだった。 「こう見えてもデパートでバイトしてたの」 「ほーう、なるほど、道理で。。。」 「でさあ」 ゴクリとウーロン茶を一口飲み、 「いきなり来た理由だけどさあ」 西崎は、カタンカップを置くや真正面から目を据えた。 流石な迫力というか、貫禄がある。 「は、はい。すんません」 「え、なにあやまってんよ」 「でも森島さんの・・・・・?」 「そう、碧のお礼に来たの」 「は!?」 「よくぞあの子を泣かせてくれましたって」 あ、やはりそのこと。。。。 どう言い訳をしたものか俯いていると 「あ、ちゃうちゃう。皮肉じゃなく本当なん」 大阪弁が出る時の西崎は、まことの本心が出る時だ。 ゴクリとウーロン茶を飲むや 「おそらくあの子。。。」 「あはい」 「涙をずっと我慢するだけの、悲惨な人生やったと思うの」   訥々と、そして涙を混じえながら西崎は語り始めたのだった。       つづく 今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。