その日の夕方。 西崎とも代がいきなりやってきたのは、 宅配便の集荷時間を気にしながら、 荷造り・発送仕事をしている時だった。
「あ。」 「何が、あっよ。ちょっとイイ?」 「あ、どうぞどうぞ」 西崎がいきなりやってきた理由。勿論わかっていた。 あれから。。。 森島碧がようやく落ち着いた頃を見計らい、 タクシーで西崎事務所まで送り届けたのだが、泣き顔は簡単には隠せなかったろう。 「しかし、ここ、よくわかりましたね」 どう言い訳をしたものか・・・・ 西崎の顔色を伺いながら応接スペースに案内する。 「そりゃ。。。あ、」 「え?」 「うわー東京タワーまともじゃん、やっぱ最高な眺めだわココ」
西崎はソファーに座ろうともせず、窓側に立ったままだった。
壁の時計を見やる。宅配便・・・・・・
「すこしだけごめん、作業の途中だったもんで」
作業机を指差した。
「あ、ごめん、ごめん。そのまま続けちゃってて」
ん?
思いのほか、西崎の機嫌は良さそうだ。
じゃあと、荷造り作業に取り掛かる。
5冊ごとに、まずクッション入りのエアーマットで包み込み、
さらにクラフト紙で包むのだが、エアーマットの膨らみで、
思うように紙の折り目が決まらない。
「ふーんどれどれ」
西崎は、珍しいものでも見るかの表情で、近づいてきたが
「ちょ、ちょっ。何よその手つき、ちょっとどいて見て」
「え、でも」
「いいから」
押しのけるように正面に立つや、鮮やかな手つきでクラフト紙を包み始めた。
「先にこう上側を折った方が線が決まるの」
「えぇ」
「次、左側から対角線を作るつもりで織り込んだら、つぎ右側からも」
「えぇ」
「下側からは、こう折り込みながら上へ持ってく。するとピシッと三角形が決まる」
「なるほど」
西崎は、あっと言う間に仕上げてしまった。
エアーマットのふわふわな膨らみにもかかわらず、
折り目は直線で決まっていた。
※
「おかげで間に合いました。」
どうぞと、ウーロン茶のカップを置き、ソファーに座る。
さあ。もう覚悟は出来た。下手な弁解はするまい。
「しっかしまあ、自分でも驚きだわ」
「は?」
「あ、いえ。20年ぶりだったけど、手が勝手に動くもんだわさ」
「20年ぶり?今の?」
鮮やかな手つきだった。
「こう見えてもデパートでバイトしてたの」
「ほーう、なるほど、道理で。。。」
「でさあ」
ゴクリとウーロン茶を一口飲み、
「いきなり来た理由だけどさあ」
西崎は、カタンとカップを置くや真正面から目を据えた。
流石な迫力というか、貫禄がある。
「は、はい。すんません」
「え、なにあやまってんよ」
「でも森島さんの・・・・・?」
「そう、碧のお礼に来たの」
「は!?」
「よくぞあの子を泣かせてくれましたって」
あ、やはりそのこと。。。。
どう言い訳をしたものか俯いていると
「あ、ちゃうちゃう。皮肉じゃなく本当なん」
大阪弁が出る時の西崎は、まことの本心が出る時だ。
ゴクリとウーロン茶を飲むや
「おそらくあの子。。。」
「あはい」
「涙をずっと我慢するだけの、悲惨な人生やったと思うの」
訥々と、そして涙を混じえながら西崎は語り始めたのだった。
つづく
今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。
従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一
同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。