「おそらくあの子。。。」 「あはい」 「涙をずっと我慢するだけの、悲惨な人生やったと思うの」
訥々と、そして涙を混じえながら西崎は語り始めたのだった。
横浜で生まれ、育った森島碧だが、幼くして両親は離婚。 三浦半島の小さな漁村、実家に碧を預けた母親はひとり横浜。 祖母とふたりだけの、慎ましくも穏やかな生活が続いた碧だったが、 やがてその祖母との哀しい別れ。。。
「でも、みたび母親との暮らしが戻ったのでは?」 だが西崎は 苦虫を噛み潰した表情で、ううんそれが。と手を振った。
あ、応募の原稿。。。(そこから本当の悲劇の始まりだった。。。)
「そこから本当の悲劇の始まり。。。」 つい言葉に出てしまった。 「え、なんで知ってるんよ」 「あ、いやなんとなく。。。そういう流れかと・・・」
西崎は疑いもせず 「ほんま、こういう時、女て弱いね。つくづく思う」 「ん!?」 「だって母親の再婚した相手が、とんでもないヤクザ男で・・・」 西崎はコップのウーロン茶をゴクっと一気に呑みほすや 「あッ」と叫んだ。
「え?」 「たったいま点灯した。東京タワー」 そう云いながら西崎はソファーから立ち上がった。
「あぁ、タワーね」 振り向くと、夕闇に見事なオレンジが浮かび上がっていた。
「虐待によくぞ耐えてくれた。いまつくづく思うわ、普通やったら。。。」 言葉が詰まった西崎は、慌ててハンカチを取り出した。
ふわりと花の香りが漂った。
「確かに。。。。」 「けど、思うの」 「ん?」
「悲劇の始まりて、あの子云ってたけど、入った施設で読書三昧の始まり。 あの子にとって、幸福の始まりでもあったて思うの」 「なるほど」 確かに・・・・・・
「で、どうやったん?あっちの件」 「は?」 「ほら、思い出捜し。。。」 「あぁ、そっちね。。。。」
つづく
今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。