小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

そして、池上線16

「あら、今日は遅かったですね。授業の居残り?」

受付を通り過ぎる時だった。いきなり彼女が声をかけてきた。

大学構内にある図書館に通い始め、おおよそ2週間。

彼女とは、すっかり顔なじみになったとはいえ、

最初の事務的に交わした会話以外、まだなかった。

だから、

すっかり舞い上がってしまった。

「え、ままぁ・・・」

ようやく、たったそれだけで、いつもの席に向かった。

(なんとそっけない。。。きっと気分を害してる)

さりげなく振り返って見た。

だが、彼女は何事もなかったかの表情で、返却本の整理とかに追われていた。

作業のたび、後ろでひとつに束ねた髪が揺れるのが印象的だった。

さてと。。。

いつものお気に入り席は空いていた。一番奥の窓側。

西日が少し差し込むのが難点だが、疲れた眼を休ませるにはもってこいだ。

人口池と、その回りをとり囲む樹木が一望できる。

池

ノートと風の系譜を取り出し、広げてはみたものの、

先ほどの言葉が渦を巻く。

(あら。今日は遅かったですね。授業の居残り?)

あら。。

とつけるには、軽い驚き・・・・

なにが驚き?

来ないとあきらめていたのに、来てくれた驚き?

まさか。

今日は・・・遅かったですね・・・・。

時計を見た。確かにいつもより1時間ほど遅い。

講義のあと、久しぶりに、クラブ室を覗いてきたのだった。

だが、遅れは、たったの1時間。

その1時間が彼女にとっては、待ち遠しかったと言うのだろうか?

いや、まさかそんなぁ。

だが、時間を覚えてくれていた。と言うだけで、すっかり彼女のことが

気になってしまった。

あ、いやいや名前も知らない彼女。。。

いや確か胸の名札。。。

そうだ。高野さん。。。

顔を上げたものの、柱が邪魔をし、受付の方は見えなかった。

    つづく

今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。