「あら、今日は遅かったですね。授業の居残り?」
受付を通り過ぎる時だった。いきなり彼女が声をかけてきた。
大学構内にある図書館に通い始め、おおよそ2週間。
彼女とは、すっかり顔なじみになったとはいえ、
最初の事務的に交わした会話以外、まだなかった。
だから、
すっかり舞い上がってしまった。
「え、ままぁ・・・」
ようやく、たったそれだけで、いつもの席に向かった。
(なんとそっけない。。。きっと気分を害してる)
さりげなく振り返って見た。
だが、彼女は何事もなかったかの表情で、返却本の整理とかに追われていた。
作業のたび、後ろでひとつに束ねた髪が揺れるのが印象的だった。
さてと。。。
いつものお気に入り席は空いていた。一番奥の窓側。
西日が少し差し込むのが難点だが、疲れた眼を休ませるにはもってこいだ。
人口池と、その回りをとり囲む樹木が一望できる。
ノートと風の系譜を取り出し、広げてはみたものの、
先ほどの言葉が渦を巻く。
(あら。今日は遅かったですね。授業の居残り?)
あら。。
とつけるには、軽い驚き・・・・
なにが驚き?
来ないとあきらめていたのに、来てくれた驚き?
まさか。
今日は・・・遅かったですね・・・・。
時計を見た。確かにいつもより1時間ほど遅い。
講義のあと、久しぶりに、クラブ室を覗いてきたのだった。
だが、遅れは、たったの1時間。
その1時間が彼女にとっては、待ち遠しかったと言うのだろうか?
いや、まさかそんなぁ。
だが、時間を覚えてくれていた。と言うだけで、すっかり彼女のことが
気になってしまった。
あ、いやいや名前も知らない彼女。。。
いや確か胸の名札。。。
そうだ。高野さん。。。
顔を上げたものの、柱が邪魔をし、受付の方は見えなかった。
つづく
今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。