小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

そして、池上線25

高野さんは、眩しそうに目を細め、車窓を眺めていた。

独り言のような喋り方だった。

だから思わず

「良いんですか」

確かめるように訊いた。

高野さんは車窓を眺めたまま、少しの沈黙があった。

「弁当でも作ろうか」

小鳥のさえずりに聴こえた気がした。

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山手線、原宿駅・・・・・・・

今も、もちろんそうだが、30年前の当時から、

すでに最先端のファッションを扱うショップがひしめき合い、

休日ともなれば、都内。。いや全国各地から若者たちが押し寄せる憧れの街。

山手線車内は、そういう少年や少女たちの熱気があふれ返っていた。

季節・・・・・そう、たしか9月だというのに真夏を思わせる日々が続いていた。

少女たちの波に押し流されるように、ホームに降りたった。

まばゆい陽光が、ホームに容赦なく射し込んでいた。

(まさか彼女らも代々木公園?)

もしそうならば、ややうんざり・・・一抹の不安も一瞬で消える。

彼女らの大波は改札竹下口へと向かい、

高野さんとの待ち合わせ場所。表参道口へは、人もまばらだった。

時計を何度も気にしながらうしろを振り返ったりした。

人を待たせるのが嫌で、約束の時間より、早めの到着。だけど

すでに高野さんは待っていた。

すっかりいつもの印象とは別人で、原宿に溶け込むような鮮やかな色のシャツ。

細身のジーンズ。そして特に印象的だったのが、粋な花柄の大きい帽子。

コットンの大きいバッグにはおそらく手作り弁当?

初めて降り立った原宿駅

都会とは思えない、木造の古臭い味が醸し出す、なんとも言えない魅力が満載。

harazyuku

なにもかもが素敵だ。

人生て悪くないものだ。矢でも鉄砲でも持って来いや。

暑さも忘れ、まばゆい青春の1ページが開く瞬間でもあった。

あの衝撃的な告白を受けるまでは・・・・・

「とうとう終わっちゃった」

「え」

「さんまの男女7人物語」

「あぁあれ。連れに聞いたけど、かなり良かったらしいですね」

木陰のベンチで何やかんや盛り上がっていた。

高山厳の、池上線。あれも結構良かったです」

すると高野さんは嬉しそうに目を細め

「でしょう」とはしゃいだ声を出した。

けれど、急に沈んだ表情になった。

「あれて不倫の歌なの、私らも・・・・かな」

「はぁ!?」

いつもは、まったくのノーメークな高野さん。

その日は、そこいらの女優にも引けを取らない完璧メークだった。

なぜかその顔が、より寂しく、哀しげにも感じられた。

「佐伯くん」

「は、はい」

「私、キミより一回りも歳上。結婚5年目なの」

「は、はあ!?」

つづく

今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。