小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

そして、池上線29

「西崎、こっち来れないかなぁ。」

馬渕探偵事務所からの報告を、西崎も呼んで一緒に見ないか。 森島に提案すると

「うわーそれ。最高」

はしゃぐように言うや、携帯を取り出した。

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だが、

何度か掛け直していたが

「ずっと『電話に出れません』のメッセージのままです」

あれ?おかしいですと、首をかしげながら振り向いた。

「テレビ局では?」

西崎は、ズバズバ本音を云う辛口キャラとして、ここのところ人気も急上昇。

あちこちの局からコメンティーターとして重宝がられていた。

「いえ、今日はずっと事務所のはずなんです・・・・あ、先輩に訊いて見ます」

と携帯を取り出した。

「先輩?」

「えぇ・・・」

「もしや上田かずみ。。。。さん?」

「えぇそうですが」

「ほー、彼女まだ西崎事務所のままに居たの?」

上田かずみも数年前に、文壇界デビューを果たし、今や売れっ子作家のひとりだ。

「上田さんだけじゃなく・・・・」

森島は2、3人の名前を挙げた。いずれもそれなりのベテランの域。

と云うより、西崎よりはるか歳上の新人作家も居る。

とうの昔に独立したと、決め込んでいた作家たちだ。

「え、えッ!?」

「それが何か?」

「てっきり貴女だけかと」

「えぇ、住み込みは私だけ。先輩らは通い弟子のまま・・・」

「なんとまぁ。ナゼまた?」

「先生が離したがらないんです」

!?

「いまだに弟子可愛いがり。。。てやつか?」

面倒見の良さ・・・・確かに西崎にはある。がなぜそうまで。。

「いえ、彼女らの世代・・・て云うかそれぞれの年代が持つ独特の感性を手放したくないんです」

「感性?」

「いつか私におっしゃってました。同世代40代の気持ちはわかるけど、

50代、30代、20代の感性。これが永遠の謎。異世代からの目線をいかに再現するか、これが永遠の課題。。。なんだと」

「そのうち全世代のスカウトも?」

冗談のつもりだったが

「えぇそれが理想とおっしゃってました」

「なんとまぁ・・・・」

初耳だった。そこまで、こだわっての執筆だったとは。

「ですから。。。」

「は、はい」

「今回、先生を助けてくださって、本当にありがとうございます」

森島は改まった表情で、深々とお辞儀した。

「いやいや、礼には及びませんよ」

「いえ、先生の場合 とことんの追求が激しくて、ずーとスランプだったんです。男性目線など

知ってるようで、やはり全然ダメと、かなり落ち込んでいたんです」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「ですから、今回の

その時、森島の携帯が振動した。

「あ、先生からです。」

「どうぞどうぞ」

手で合図するや、しばらく話し込んでいたが にっこりと微笑むや振り向いた。

「今、芝公園駅改札出たとこらしいです」

「な、なんとまぁ。。。。」

 

つづく

今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。

従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一

同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。