馬渕事務所からの報告書、中間報告とはいえ、肝心の部分が黒塗りにされてあった。
報告書を読みたくて、すっ飛んで来た西崎とも代
「今から訊きに行く?」
の声に、一同腰を上げようとした時、突然森島が声を上げた。
「今 ライトアップしました、東京タワー」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あ。いつ見ても感動モノやね」
西崎も一旦は上げた腰を下ろし、
「こんな時間、馬渕さんとこ、いきなり3人で押しかけるのも何やな」
と言った。彼女にしては珍しい。
いつの間にやら、すっかり外は夕景の空へと移っていた。
確かに。。。それに・・・・
そもそも、ライトアップされた東京タワー。彼女たちとの見物が本日の第一目的だったではないか。
“実家と思われる住所に、心当たりがある場合至急のご連絡を”
報告書、最後の部分を指しながら
「とりあえず電話してみる。丹後半島。高野さんに間違いない思う」
所長の馬渕はワンコールで出た。
(これはこれは佐伯さん)あい変わらず軽い声。
西崎は、電話が気になって仕方ない。と云うそぶりを見せていたが、
気を効かせたのだろう。
「ライトアップも感動モンやわ」森島を促し、窓側へと立った。
(佐伯さま、お待ち申し上げておりました)
「あ、どうも。。。。」
(で、京丹後市。。。)
馬渕の言いかけを遮り
「は、はい。間違いないです。実家に間違いない、思います。竹野と書いて”たかの”て読む。そう云う会話の記憶があります」
(なるほど。では旧姓の吉岡。。。)
「えぇ、それについては・・・実は旧姓については初耳なんです。でも高野さんだと。。」
(じゃあ、高野しおりこと旧姓吉岡しおり。ご本人さまと断定し、継続調査させていただきますがそれでよろしいですね)
「えぇ・・・それで今。彼女は旧姓に戻られ、住まいは京丹後市と云うことなのでしょうか」
(・・・・・・・・)
馬渕は、少しの沈黙のあと
(一応。住民票ではそのように)
「じゃあお元気でいらっしゃるかどうか。。」
(佐伯さま)
「あ、はい」
(あくまでも中間報告ということをお忘れなく)
「えぇ。。。すみません」
(それに、これまでの調査は、あくまでも住民票だけの追跡なのです。
あ、ですが二、三都内についてはもちろん確認のため現地調査も致しました。ですが、他県や京丹後市につきましては、これからなのです。今一度確認しますが、継続調査の了承でいいですね)
「えぇ、お願いします」
(了解です)
「あ、あのう」
(はい?)
少しのためらいがあったが思い切って訊いてみた。
「彼女、高野さんが旧姓に戻られたのはいつなのでしょう?肝心な部分が黒塗りなので、今からお伺いしょうと決めていたんです。西崎先生たちと」
(え、今からですか)
西崎先生と呼ばれ、西崎が反応しソファーに戻った。
やはり、聞き耳を立てていたのだろう。
「えぇ馬渕さんの都合さえよければ今から」
すると馬渕は、しばし沈黙のあと
(それはちょっと。。。。都合が。。。)
そりゃあ、まぁそうだろう。仕方ない。
指でX印。西崎にサインを送る。
「わかりました。仕方ないです」
西崎はバッグから手帳とメガネを出し、何やらペンを走らせていたが
【ちょっとミドリと出てくる、すぐ戻るから待ってて】
メモを寄越すなり森島と出て行った。
え?と見送りながら
「あ、あのぅ馬渕さん、最初の質問ですが」
(は?)
「ですから彼女が、旧姓に戻ったのはいつ頃?」
(あぁ。。。失礼1989年です)
!?
「え、間違いないですか」
(一応書類上は)
なんと、あれから3年後に旧姓に戻ったことになる。
「ズバリ、訊きます。離婚だったのでしょうか」
またも長い沈黙のあと、ようやく馬渕の声。
(佐伯さま)
「あはい」
(そのあたりご本人さまの同意が必要に。。。)
「例の個人情報保護という奴ですね」
(えぇ。恐れ入ります)
※
すぐ戻るとメモを寄越しながら、ふたりとも帰ってきそうになかった。
引き出しの奥から高野さんから葉書を取り出した。
消印は薄ぼんやりだったが、1990年と読める。
だが、差出人の名前は、どう見ても”高野しおり”のままだった。
ガチャリとドアが開くなり
「店、探すの苦労したわー」
二人とも両手にレジ袋を下げ西崎と森島が戻ってきた。
つづく
今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。
従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一
同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。