小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

そして、池上線32

馬渕事務所からの報告書、中間報告とはいえ、肝心の部分が黒塗りにされてあった。

報告書を読みたくて、すっ飛んで来た西崎とも代

「今から訊きに行く?」

の声に、一同腰を上げようとした時、突然森島が声を上げた。

「今 ライトアップしました、東京タワー」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あ。いつ見ても感動モノやね」

西崎も一旦は上げた腰を下ろし、

「こんな時間、馬渕さんとこ、いきなり3人で押しかけるのも何やな」

と言った。彼女にしては珍しい。

いつの間にやら、すっかり外は夕景の空へと移っていた。

確かに。。。それに・・・・

そもそも、ライトアップされた東京タワー。彼女たちとの見物が本日の第一目的だったではないか。

“実家と思われる住所に、心当たりがある場合至急のご連絡を”

報告書、最後の部分を指しながら

「とりあえず電話してみる。丹後半島。高野さんに間違いない思う」

所長の馬渕はワンコールで出た。

(これはこれは佐伯さん)あい変わらず軽い声。

西崎は、電話が気になって仕方ない。と云うそぶりを見せていたが、

気を効かせたのだろう。

「ライトアップも感動モンやわ」森島を促し、窓側へと立った。

(佐伯さま、お待ち申し上げておりました)

「あ、どうも。。。。」

(で、京丹後市。。。)

馬渕の言いかけを遮り

「は、はい。間違いないです。実家に間違いない、思います。竹野と書いて”たかの”て読む。そう云う会話の記憶があります」

(なるほど。では旧姓の吉岡。。。)

「えぇ、それについては・・・実は旧姓については初耳なんです。でも高野さんだと。。」

(じゃあ、高野しおりこと旧姓吉岡しおり。ご本人さまと断定し、継続調査させていただきますがそれでよろしいですね)

「えぇ・・・それで今。彼女は旧姓に戻られ、住まいは京丹後市と云うことなのでしょうか」

(・・・・・・・・)

馬渕は、少しの沈黙のあと

(一応。住民票ではそのように)

「じゃあお元気でいらっしゃるかどうか。。」

(佐伯さま)

「あ、はい」

(あくまでも中間報告ということをお忘れなく)

「えぇ。。。すみません」

(それに、これまでの調査は、あくまでも住民票だけの追跡なのです。

あ、ですが二、三都内についてはもちろん確認のため現地調査も致しました。ですが、他県や京丹後市につきましては、これからなのです。今一度確認しますが、継続調査の了承でいいですね)

「えぇ、お願いします」

(了解です)

「あ、あのう」

(はい?)

少しのためらいがあったが思い切って訊いてみた。

「彼女、高野さんが旧姓に戻られたのはいつなのでしょう?肝心な部分が黒塗りなので、今からお伺いしょうと決めていたんです。西崎先生たちと」

(え、今からですか)

西崎先生と呼ばれ、西崎が反応しソファーに戻った。

やはり、聞き耳を立てていたのだろう。

「えぇ馬渕さんの都合さえよければ今から」

すると馬渕は、しばし沈黙のあと

(それはちょっと。。。。都合が。。。)

そりゃあ、まぁそうだろう。仕方ない。

指でX印。西崎にサインを送る。

「わかりました。仕方ないです」

西崎はバッグから手帳とメガネを出し、何やらペンを走らせていたが

【ちょっとミドリと出てくる、すぐ戻るから待ってて】

メモを寄越すなり森島と出て行った。

え?と見送りながら

「あ、あのぅ馬渕さん、最初の質問ですが」

(は?)

「ですから彼女が、旧姓に戻ったのはいつ頃?」

(あぁ。。。失礼1989年です)

!?

「え、間違いないですか」

(一応書類上は)

なんと、あれから3年後に旧姓に戻ったことになる。

「ズバリ、訊きます。離婚だったのでしょうか」

またも長い沈黙のあと、ようやく馬渕の声。

(佐伯さま)

「あはい」

(そのあたりご本人さまの同意が必要に。。。)

「例の個人情報保護という奴ですね」

(えぇ。恐れ入ります)

すぐ戻るとメモを寄越しながら、ふたりとも帰ってきそうになかった。

引き出しの奥から高野さんから葉書を取り出した。

消印は薄ぼんやりだったが、1990年と読める。

だが、差出人の名前は、どう見ても”高野しおり”のままだった。

ガチャリとドアが開くなり

「店、探すの苦労したわー」

二人とも両手にレジ袋を下げ西崎と森島が戻ってきた。

つづく

今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。

従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一

同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。