小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

そして、池上線34

OB展での再会について、西崎があれこれ推理を展開。

なるほど、さすがと思わせるものがあった。

だが森島が放ったひと言

「たんなる偶然じゃないと思います」

 

そして、続きの言葉に

ドンっと胸を揺さぶられた気がした。

「ずーっと思い続け。。。常に行動とかマークしてたのじゃないでしょうか」

 

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はっ まさかそんな。。。。だが、いやそういえば。。。

 

酔いの頭で混乱するなか、必死に記憶を呼び戻そうとした。

西崎が追い打ちをかける。「それアリかもね。何年ぶりやったん?」

「4年ぶり」

「ふーん」

だが、西崎は「はあ!?」と驚き「ちょ、ちょっとちょっと。えーと。。。」

何やら指折り数えていたが

「なんかオカシイやん」

「え、どこが」

「あたま整理するわね。まず彼女との最初の出会いは確か1986年?」

「えぇ」

「で、OB展が1990年」

「えぇ」

「それが4年ぶりの再会て、なんかおかしくない?」

「え、どこが?」

「いったい何年のお付き合いだったん?」

「いや、何年というより・・・3、4ヶ月ぐらいかな」

「んなぁ!。。。。」

 

西崎だけでなく、森島も狐につままれたような顔をしている。

 

「あ、あのね。最初から確認するわね。。。あミドリ、ワイン。。。。ん、ありがと」

西崎はグイっと一口呑み、

 

「まず図書館での出会いが9月。。。」

池

 

「えぇ」

「そっからたった3、4ヶ月て、そんじゃあ秋から冬だけのお付き合いてこと?」

「えぇ、卒論のとっかかりが9月、で完成が翌1月だったから。。。」

「あ、あのね。卒論のことなど訊いてへん」

「あ、いや卒論で通いつめた図書館の日々。。。」

 

カタンッ。西崎は音をたてワイングラスをテーブルに置いた。

 

「し、仕舞いに怒るわよ」

なぜか急に西崎は不機嫌になった。

 

「ですから、図書館に通いの日が。。。。」

「まさかお付き合いは図書館だけってこと?」

「いや、帰りの喫茶店とか、五反田までの山手線。それと代々木公園。。。月いちぐらいでピクニックの真似ごと」

「んなぁ。。。小学生どうしの交際じゃあるまいし」

「ですから。。。そのう。。。」

 

確かに。西崎の云う通りかも知れない。

 

「そのう。。。て何よ」

「代々木の初日」

「えぇ」

「せっかくのデート初日。。。人妻て知らされて・・・」

「でも。。。肩を抱き寄せ『好きです』て云ったんでしょ。。。。

あー。あのあと、未だ訊いてなかったわ、あれから、どーなったん?」

 

「静かに振りほどき、『ごめんなさい』てだけで。。。」

 

「そ、それだけ?」

「えぇ」

 

「それであとは、小学生どうしの・・・・」

「えぇまぁ」

「手をつないだだけ?」

「いやいや、全然。手をつなぐどころか、肩を並べ歩くだけで」

 

「うそッやん、それ」

「と、とんでもない。彼女と会話だけでも、なんか満たされて。。。」

 

「ミドリっ、あんたどう思う」

気づけば森島もワインで赤ら顔になっている。

 

「佐伯社長さんらしいと思います」

「あ、あんたね。。。。」

「先生、素敵だと思いませんか」

「ど、どこがやの」

「たった3ヶ月だけの淡いお付き合い。。。それを30年もの間、心の中に仕舞い込み。。。」

 

「うぐっ。。。」

西崎にも何か感じるものがあったのか黙り込んでしまった。

 

 

「最初の話に戻るけど」と顔を上げた。

「えぇ」

「OB展での再会。。。あなたその時、独りやった?」

 

ぐふッ。

 

こちら側に、胸を突き上げるものが走った。

それを訊かれると痛い。

 

「実はその時。。。今の女房が横に。。。」

「え、結婚してたん?」

 

「いえ式は翌年に。。。」

「彼女、高野さんとの再会はそれ以後。。。」

「えぇ、あれ以来パタリと」

 

「やはりね」

「え?」

「わからない?」

「えぇまぁ」

 

すると

「ミドリ。何が素敵なもんか。男てやっぱ鈍感やわ、よー見ときなさい」と言った。

 

すると森島までもが

「そうですね先生」と言った。

 

 

気のせいか、東京タワーの灯りが、霞んで見えた。

 

 

 

つづく

 

 

今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。

従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一

同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。