ファドのBGMも悪くねぇな。そんなことを考えていた。
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[caption id="attachment_992" align="alignnone" width="365"] PHOT0015.JPG[/caption]
突然馬渕は、なにやら聞き覚えのある鼻唄を歌い出した。
じっと耳を傾けしばらく聴いているうち、ようやく”瀬戸の花嫁”だと気づいた。
「あはは、急にどうしたのですか」
え!
馬渕の瞳は濡れていた。
「佐伯さん」
「あ、はい」
「吉岡さん・・・・・この曲を聴くたんび、泣いてられたそうですね」
「へーそうなのですか、なぜまた」
「あ、お聞きじゃなかった?す、すみません」
馬渕は、なにかまずい事を喋ってしまったかの表情を曇らせた。
ん?
そう言えば。。。
何かの折に彼女が口にしたことを思い出した。哀愁あるメロディーだけれど
決して哀しい曲じゃないのに『つい泣いてしまうの』その言葉が印象的で、え!と訊いた記憶がある。
「たしか実家の弟さんを想い出すとか」
「ええそれです・・・・上京の折、泣きじゃくった幼い弟。で、あなたがその弟さんと良く似てらして。。。」
「え。そうなのですか、それは初耳です」
馬渕の顔をしげしげと眺めた。
よくもまぁ。初対面のこの男に・・・・・
彼女吉岡さんから、そんな事まで聞き出したこの手腕。。。。と言うか何ていうか、この敏腕ぶりにすっかり呆れてしまった。
「ところで馬渕さんって幾つですの歳?」
すると
「あー。これも貴方に謝らないと行けない事、あるんです」
なぜか馬渕は慌てながら言った。
「はい?」
「彼女、吉岡さんに嘘ついちゃいました」
「何ですの」
「彼女に訊かれたとき同じ昭和30年生まれって咄嗟に、けど本当は58なのです。
33年生まれの」
「あはは、逆にサバをよんだのですか。けど謝る必要なんかべつに」
「歳が若いと、吉岡さんから信用されてもらえないかもとか。。。というより、警戒されるのも嫌だしなとか、咄嗟に考えたです。それであんな嘘を」
この正直ぶりに、胸を打つものがあった。誰がなんと言おうが、馬渕は絶対に信用できる探偵だと思う。
「それで。。。佐伯さま」
「え、はい」
「当初のご依頼は、消息の確認だけでした」
「えぇまぁ・・・・」
「吉岡さまとお会いに?とかなど」
!!
それもあれこれ考え、悩みの一つでもあった。
本当の依頼主、西崎とも代としては、実際に合わせたがってるフシがある。
けれど、今さら彼女と再会したところで。。。でも今一度会ってみたい。とも思う。
「そのあたり。。。吉岡さんは何と?」
「えぇ。。。。」
ん?またもやこの曇った表情が気になる。
馬渕はようやく
「迷ってられました。すぐにでも再会してみたい、けど貴方にはご家庭が。今さら会ったところで・・・・でもやはり。。。そのあたり揺れ動く女ごころと申しましょうか」
「馬渕さん」
「えぇ」
「こういう時、他の方たちどの様に?」
「と申しますと?」
「ですから、初恋捜し。他のひと達、結末の処理など、どの様に?」
すると
「佐伯さま」
「あ、はい」
「正直に言います。佐伯さまが最初で最後の仕事だったのです」
「なんとまぁ」
「申し訳ございません」
「いえ、別に謝りなど」
「逆に私の方が、あれこれ良い経験をさせてもらいました」
あー。たしかに。彼女との三日間、あれこれを聞くと嫉妬心さえ湧く。
だが、絶対に愛川欽也。
この顔を眺めるうち、嫉妬心などどうでも良くなる。
「馬渕さん」
「は、はい」
「約束して頂けますか」
「って何を」
「彼女・・・・吉岡さん。今度こそ幸せにして頂けますか?」
「はい?」
つづく
今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。