小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

そして、池上線70

馬渕が西崎とも代とのアポがようやく取れたのはあさっての日曜。しかも午後8時という最悪の時間帯。普通ならば絶対に組み入れない予定だった。

けれど、ぜひご一緒にと懇願する馬渕の頼みとあれば。。。いや、やはり・・・。それより何より、西崎のひと言で火がついた【天の夕顔】まさかの重版が決まったのだった。今や救いの神ともいうべく西崎とも代。彼女の為ならたとえ火の中水の中。。

馬渕が森島碧に聞いた話によると、文芸新春への連載決定後、いつも以上に執筆に集中。事務所から一歩たりとも外出しない日々とのことだった。森島碧・・・

ドクンと胸が鳴った。心のどこかに棲みついたままなのだろうか。

「了解です、日曜午後8時西崎事務所で」

隣のキッチンで洗い物仕事の女房に聞こえるよう、日曜午後8時をわざと繰り返し、馬渕からの携帯を切った。「最悪や、また日曜の夜やて」わざと乱暴ぎみに携帯をソファーに放り出す。

テレビのボリュームを戻しながら女房の反応を伺う。

案の定、しっかりと聞き耳を立てていたのだろう「また日曜?」と言いながら振り向いてきた。

「あぁ、おまけに午後8時やて」

こちらの表情を観察するや「ふーん」と応えただけで洗い物仕事に戻る。

「ナニその“ふーん”は?」

荒げた声を背中に投げつけるも、無視のまま洗い物の手は休めない。

勝手にしろ。こちらも無視を決めつけテレビに集中していると、

「なんか楽しそうやね」ようやく洗い物を終え戻ってきた。

「はあ?ナニが楽しそうって?」

「つくづく思うわ」

「何が」

「昔の人は偉い。眼は正直。よくぞ言ったものや、この名言」

一瞬、ドキっとしながら

「おいおい、この眼、楽しそうって?日曜の夜に仕事やぞ。しかも雪が谷大塚まで」

「馬渕さんって誰?最近しょっちゅうやね」

!?

「ま、前に言っただろ、西崎先生の関係で。。。。」

「うわぁ」

「はあ?」

「熊本城。。。こんなに。。。」

女房が指差した先、あちこち崩れ落ちた熊本城が映し出されていた。

「何年かかるやろ」

「え?あぁ熊本城。。。4、50年もあれば」

「そんなに?」

「この前ニュースで言ってた」

「最近、テレビ出てないね」

「え?」

「西崎先生」

「あぁ西崎先生ね。新連載で大変そう」

「なのに、よくアポ取れたね?」

「新連載に関係することやから」

「誰が?」

「俺や、馬渕さんの・・・・・」

あッしまった。 と気付いたが、あとの祭りだった。しっかりとインプットされただろう。

初恋捜し。。。物語りの主人公モデル。。。

つづく

今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。