馬渕が西崎とも代とのアポがようやく取れたのはあさっての日曜。しかも午後8時という最悪の時間帯。普通ならば絶対に組み入れない予定だった。
けれど、ぜひご一緒にと懇願する馬渕の頼みとあれば。。。いや、やはり・・・。それより何より、西崎のひと言で火がついた【天の夕顔】まさかの重版が決まったのだった。今や救いの神ともいうべく西崎とも代。彼女の為ならたとえ火の中水の中。。
馬渕が森島碧に聞いた話によると、文芸新春への連載決定後、いつも以上に執筆に集中。事務所から一歩たりとも外出しない日々とのことだった。森島碧・・・
ドクンと胸が鳴った。心のどこかに棲みついたままなのだろうか。
「了解です、日曜午後8時西崎事務所で」
隣のキッチンで洗い物仕事の女房に聞こえるよう、日曜午後8時をわざと繰り返し、馬渕からの携帯を切った。「最悪や、また日曜の夜やて」わざと乱暴ぎみに携帯をソファーに放り出す。
テレビのボリュームを戻しながら女房の反応を伺う。
案の定、しっかりと聞き耳を立てていたのだろう「また日曜?」と言いながら振り向いてきた。
「あぁ、おまけに午後8時やて」
こちらの表情を観察するや「ふーん」と応えただけで洗い物仕事に戻る。
「ナニその“ふーん”は?」
荒げた声を背中に投げつけるも、無視のまま洗い物の手は休めない。
勝手にしろ。こちらも無視を決めつけテレビに集中していると、
「なんか楽しそうやね」ようやく洗い物を終え戻ってきた。
「はあ?ナニが楽しそうって?」
「つくづく思うわ」
「何が」
「昔の人は偉い。眼は正直。よくぞ言ったものや、この名言」
一瞬、ドキっとしながら
「おいおい、この眼、楽しそうって?日曜の夜に仕事やぞ。しかも雪が谷大塚まで」
「馬渕さんって誰?最近しょっちゅうやね」
!?
「ま、前に言っただろ、西崎先生の関係で。。。。」
「うわぁ」
「はあ?」
「熊本城。。。こんなに。。。」
女房が指差した先、あちこち崩れ落ちた熊本城が映し出されていた。
「何年かかるやろ」
「え?あぁ熊本城。。。4、50年もあれば」
「そんなに?」
「この前ニュースで言ってた」
「最近、テレビ出てないね」
「え?」
「西崎先生」
「あぁ西崎先生ね。新連載で大変そう」
「なのに、よくアポ取れたね?」
「新連載に関係することやから」
「誰が?」
「俺や、馬渕さんの・・・・・」
あッしまった。 と気付いたが、あとの祭りだった。しっかりとインプットされただろう。
初恋捜し。。。物語りの主人公モデル。。。
つづく
今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。