あ、三好ちゃん。あさって来れる?。。。。そう、例の件佐伯社長が、ぜひにって。。。。。え、夕方ならOK?。。。ちょっと待って」
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。。。。。。。とまあ、以上が佐伯社長の変更案なんだわさ、どう思う三好ちゃん」
西崎から振られても三好菜穂子は、手帳に目を落としたまま、微動だにしない。なにやら考え込んでいるような、そうでもないような、複雑で奇妙な雰囲気を漂わせている。
「え、ちょっとちょっと三好ちゃん」
ふたたびの呼びかけに三好菜穂子は
「え?あ、はい。すみません先生」ようやく気付いたかの表情で顔を上げた。
「すみませんじゃないよ、説明、聞いてくれてた?」
「え、えぇ勿論。それで良いと思います」
どこか他人事のような、おざなりな感想だった。
「あのね。。。。三好ちゃ」
西崎が何やら言いかけたが、
「かなりの変更になるけど、真剣に考えての返事か。日程的にも大丈夫なんか」
つい昔と同じように、叱りつける言い方で口を挟んでしまった。
「もちろん部長。あ、社長。まず日程の件ですが、とりあえずの6月号、冒頭の部分、大幅な変更なしで進められると思います。登場人物のさわりというか、紹介がメインですから。で、次の号から『いよいよ』が始まることになるでしょうから、大急ぎ先生には取りかかって頂きたく。。。。その為に佐伯社長には自身のエピソード、心情。。例えば心の変化の参考になる資料とかの提供も大急ぎで。。。
その後、三好はようやく元気を取り戻したかの如く、的確で鋭い編集者としての顔を覗かせた。
だがときおり、ほんの一瞬ではあったが、心ここに在らず的な表情を見せ、泳がせた眼は、いたずらに宙を彷徨っていた。彼女とはかれこれ、5年。。いや8年もの付き合いだが、初めてみる顔があった。
その後、編集方針の再確認、たとえば結末までの展開について、三者の意見を戦わせたが、最終的には私の案の同意が得られたのだった。
「本日はありがとうございました。お陰で先が見えてきたわ」
言うや、西崎は携帯を取り出し、
「碧。となり用意出来てる?。。。ハイ了解。じゃあ今から」
フリップを閉じ、
「何もないけど、寿司右衛門の鉢、用意出来てますの、摘んで帰ってくださいな」と言った。
「え、寿司右衛門って銀座の?うわあ最高!感激ですぅ先生」
すっかりと、三好は以前の元気娘の顔を見せた。
だが・・・・
※
「え。君んちも池上線だったっけ」
「いえ。普段は浅草線なんです。でも戸越銀座でも近いんです」
「ふーん。知らなかったなぁ」
「嫌ですう、前にも言いましたよ」
「そうだっけ、ごめんごめん」
西崎邸をふたりで辞した時、すっかり夜も更け満月が出ていた。
池上線、五反田行きはガラ空きだった。
「久しぶりの寿司右衛門、やはり感激だったね酒も美味しく。。」
話しかけたものの、横に座った三好は何やら考え事をし、またあの虚ろな表情に戻っていた。
!?
ふとその時
戸越銀座。。。むかし西崎担当の編集者時代、よく連れられ行った馴染みのバーを思い出した。
「三好くん、良ければ飲み直さないか」
一瞬断られるかも。そう思ったが
「え、良いんですか」と目を丸く輝かせた。
やはり・・・
ぜひ話を聞いて欲しい。とその眼が言ったような気がした。
つづく
今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。