五反田行きの池上線を待つホームのベンチに座ると同時に三好菜穂子の言葉が蘇った。
「どうしようもない恋なんです」
「え?誰が」と覗き込んだ。
だが三好は両手で顔を覆い、下を向いたまま静かにかぶりを振り続けた。
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五反田行きの小さな列車がホームに滑り込んで来た。
さすがに車内はガラ空き。よろける様に座席に落ち着くや、目を閉じた。
なんとまぁ、三好菜穂子は、あろうことか、寺島に恋していると言うのか。
(うわー。うそうそ。わー感動。ぶ・ち・ょ・う)
(まさかこの私を観察してくださってて?うわーこんなの初めてですぅ)
今まで考えもしなかった事だ。今さらながら、彼女のことを見ていなかった自分を恥じる。
入社間もない頃から、他の新人とは明らかに違う能力や意思の強さを感じ、すっかり安心し、任せっきり。。
つまり放任も同然の扱いを彼女に対し行っていたのだった。
とうぜんながら彼女には彼女なりの心配や悩み、つまづきだってあっただろう。なぜもっと早く気づかなかった。。
しかも。。。
会社を離れて、今ごろになってようやく気づくなんて。。
それにしても 寺島。。。とは
なぜこうも、すんなりと行かないものか。
考えに耽っていると降車のアナウンスが聴こえた。すっかり終点の五反田駅と早合点し起ち上がる。だが、ひとつ手前の大崎広小路駅だった。
そのまま夜景を窓越しに眺める。
そのとき、何の脈略もなく高野さんの笑顔が浮かびあがった。
やはり、すぐにでも逢いたい。。。。
その前に、何としてでも三好の抱えている悩みの解消。。。。
果たして自分の手に負えるのやら。。。結果など知りようがなかった。
ただ確実に言えるのは、この日を境に、彼女、三好菜穂子という存在が、
自分の脳内にしっかりとクローズアップされたと言うことだった。
いや
されてしまった。と言うべきか。。。。。
※
5月のゴールデンウイークも尻目に西崎邸通いを続けた結果、
ようやくストーリの骨格が決定した。
この私と西崎事務所の新人との恋。。。
だが結局のところ、さすがに本人、森島碧への配慮もあり、西崎の一番弟子作家との関係に落ち着いたのだった。
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「ふーやれやれだわ。佐伯社長、三好ちゃんもありがとう。この通り。。」
西崎はソファーから立ち上がるや、深々と頭を下げた。
「あ、とんでもない。こちらこそ」こそ」
「ぷっ。なに、御二人さん重なってるんよ、最近えらく息がピッタシちゃう?」
「え。そんなぁ」なぁ」
またも言葉が重なり、三好と顔を見合わせ、笑いあった。
西崎は老眼鏡を掛けなおし、携帯電話を取り出した。
「あ、碧。無事終了、今から打ち上げ行くけど、碧も来る?・・・あ、そう。。じゃあウチらだけで行くわ」
西崎の携帯を聞きながら思わず三好と顔を見合わせた。
このあと、戸越銀座、BARあほう鳥へ行く約束をしていたのだった。
つづく
今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。