じゃあ、そろそろ降りる支度を。と先ほどから何やらスマホに打ち込んでいた上田かずみ氏をみれば、まだスマホの画面と格闘中だった。ちらりと見ると文字でびっしり埋め尽くされてある。
「あのぅそろそろ」と起ち上がると
「あはい。」と笑顔を向け、慌てて立ち上がるや「ぎりセーフ、送信」呟きながらの指タッチ。ようやくバッグにしまった。
乗客の大半は京都駅で降りた。ホームに降りるや東寺の塔が見えた。なつかしい京都独特の薫りがよみがえった気がした。
ついに来たか、京都。
「しかしまぁ、急ぎの原稿ですか」
上田を振り返ると、あたりをキョロキョロしながら
「えぇまぁ。。。先生へのリポート」とだけ言った。
「て、西崎?」
それには応えず、まだホームを見回していたが、「あっ、先生。」と声を上げ手を振った。
え!?
なんと視線の方向を見れば、西崎も手を振り返しながらこちらに駆け寄り始めていた。だが、珍しく和服を決め込んでおり、走り出したくても草履の足元では頼りなげだった。
「一本あとでは?」
上田はペロっと舌を出し、「詳しくは先生の方から。。。」とだけ呟き、首をすくめた。
「あ、どうもご苦労様です」
西崎に頭を下げると、
「社長こそ、お疲れさま。しかしまぁやっぱええわ、京都」
大学まで関西暮らしだった西崎とも代。地元にようやく帰ってきた感の表情で呟いた。
上田は西崎にぴょこんと頭を下げ「じゃあ、バスの時間がありますので、これで失礼します」と言った。
「え、もう?昼、一緒に食べて行こうよ」
「すんません、明日から下り坂みたいで、北山の取材、できるだけ陽の高いうちにしておきたいんです」
「あら、そう。じゃあね、本日はありがとう」
「こちらこそ、新幹線代、すみませんでした」
「なんのなんの、あれしき。それよりリポート助かったわ。あとで読ませてもらうね。じゃあ」
※
馬渕は中央改札口まで迎えに来てくれていた。目を合わすなり、笑顔を発散させ「本日は遠路はるばる、お疲れ様でした」と、まるで我がごとのような挨拶ともに二人に頭を下げた。
「さてと」
馬渕は時計に目をやり、「画廊の前に、お昼でもどうですか」と訊いてきた。
すかさず西崎は
「あ、賛成。でも、ええトコ知ってるん?」
すると馬渕は、「車でちょこっと走りますが、雰囲気のある店、チェックしておいたんです」
「え。車?」
「えぇまぁレンタカーですけど」
「わざわざ迎えの為に?」
「あ、違います。作品の移動やら何やら考えるとレンタカーが安くつくんです」
「なんとまぁ、すっかりあっち側の人かいな」西崎が茶化した。
「えぇまぁ」馬渕は照れ笑いをしながら鼻の下を伸ばした。
すっかりと吉岡紫織の側に居る気がし、一瞬、馬渕が憎らしく感じた。
「で佐伯さん」
「あはい」
「じつは彼女もその店で待ち合わせてあるんです」
と言った。
胸がどきりと鳴った。
「え、いきなりですか」
「えぇ、画廊よりも、じっくりお話が出来るやろ。そう思いまして」
いよいよ 最終回(後編)に つづく
今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。