小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

2011-01-01から1年間の記事一覧

狂二 Ⅲ 断崖編 52最終回

2010年4月4日(日曜日)午前10時56分 「まもなく当機は着陸態勢に入ります。シートベルト装着のご確認を願います」 客室乗務員のアナウンスが響いた。 田嶋総業社長 高城は小窓から望む白浜の海を眺めた。 (なんと美しい青。だが数日前まで河本は…

狂二 Ⅲ 断崖編 その51

2010年 4月4日 午前10時20分 白浜市内 国道42号線 (ここまで渋滞が酷いとは) 栗原は、車の脇を750ccバイクですり抜けながら空港方面に走らせていた。 ん! 反対方向からのバイク集団が前方交差点を右折していった。 見覚えのある集団だ。…

狂二 Ⅲ 断崖編 その50

2010年4月4日(日曜日)午前9時45分 東京国際(羽田)空港 乗客38名を乗せた日本航空1381便白浜空港行きはほぼ定刻通り、トーイングトラクターに鼻先をそろりと、押し出され、エプロンと呼ばれる駐機場を離れた。その後離陸用滑走路に入る手…

狂二 Ⅲ 断崖編 その49

2010年4月4日(日曜日) 午前4時0分 みなべ町 ミナベスカイコーポ301 ピッピ、ピッピ、ピッピピピ・・ デジタル目覚ましの特有の電子音がけたたましく鳴り始めた。 停めなければ・・はてスイッチは、目覚ましは、どこだっけ? あわてて伸ばした室…

狂二 Ⅲ 断崖編 その48

2010年4月3日(土曜日)午後8時40分 和歌山県警田辺署、署長室 「これは失礼。どうやらお取り込み中に、ご無理を申し上げたようで」 皆川に伴われて入ってきた、PJ警備の奥寺を名乗る男が頭を下げた。 言葉の割にはどこか横柄な態度だ。 (はてこ…

狂二 Ⅲ 断崖編 その47

2010年 4月3日午後6時 和歌山県警田辺署 「4・4警備体制総指令本部」本部長に任命された田辺署署長、 永野功(ながのいさお)は青ざめた表情でテレビ画面を見つめていた。 本来ならこの時刻、明日の警備の応援に駆けつけてくれる県警管轄の他署を始…

狂二 Ⅲ 断崖編 その46

2010年 4月3日(土曜日)午後2時半 田辺市新若葉町5丁目 ルネッサンスハイツ前 カローラ車内 「しかし室井の奴、どこに潜り込んでるんでしょうなぁ」 ヒロシが佐々木の顔を覗き込んだ。 小一時間前の事だった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・…

狂二 Ⅲ 断崖編 その45

2010年 4月3日(土曜日)午後1時半 PJ警備(プレタジュテ警備)総勢20名を乗せた中型バス。 和歌山県北部の山中をより山側に鼻先を向け走らせていた。 運転手が「奥寺隊長、えらい山ん中やが本当に間違いないすか」 耳にしていたMP3再生機のイ…

暇つぶしに新幹線の中で

「電車の運転」中公新書、宇田賢吉著 を読んでいるのだが、 イヤー 電車の運転って 実に危険と隣り合わせなんですなあ。 この本 専門用語や数学の係数などあちこちに散らばり、順序よく読むのは拙者の頭では厳しい(≧ω≦) で 拾い読みのレベルなのだが、 あッ …

狂二 Ⅲ 断崖編 その44

2010年 4月3日(土曜日)午前3時半 (ナンバースリー、こちらナンバーシックス、和歌山ナンバーの格好のターゲット発見、只今より決行する) (ナンバーシックス、こちらナンバースリー。了解) 浩二が、耳に挟んだイヤホンからは英語による上のよう…

狂二 Ⅲ 断崖編 その43

2010年 4月2日 午後5時10分 プレタジュテ人材サービス本社 「お疲れさまでした。寂しくなるね」 腰を屈め、机、最下段の引き出し内にある私物を片づけていた陳麗花。 頭の上、声の方向を見上げると、河野美佐子が立っていた。 「あ、どうもありがと…

狂二 Ⅲ 断崖編 その42

2010年 4月2日 午後3時 コンビニエンスストア「ラーソン築港店」スタッフルーム(更衣室を兼ねた休憩室) ようやく勤務の終えた、河本多美恵は着替えの為ロッカーの扉を開けた。 早朝5時から午後3時まで、ほぼ立ち仕事の連続。店のオーナーには悪い…

狂二 Ⅲ 断崖編 その41

2010年4月2日 午後2時40分 ワールドアドベンチャー 観覧車内 佐々木とヒロシの乗ったゴンドラはまもなく頂上に差し掛かかろうとしていた。 佐々木は、高度が上がるにつれ、徐々に視界が開けてくる園内を凝視した。 何かテロにつながる可能性のモノ…

守屋元防衛事務次官 有罪判決は口封じではないか

去年買ったままだった「普天間」交渉秘録途中まで読んでいる。 実に驚きの連続である。数年前 すべてのマスゴミは 守屋元防衛事務次官を叩き、自分も含め 守屋氏に対し(悪者)なイメージが強い。 刑務所に収監される直前に発行された、この本 すべては 真実…

狂二 Ⅲ 断崖編 その40

2010年4月2日 午前11時50分 和歌山県警田辺署 第三応接室 コンコン 婦人警官の軽いノックが響く。「田沼さん、署長が参りました」 婦人警官の案内で、のそりと署長が入ってきた。 総務課主任、田沼は、さっと立ち上がり、直立不動の姿勢を保った。…

狂二 Ⅲ 断崖編 その39

2010年4月2日 午前10時半 田辺市民病院 町村は1階、玄関横のロビーで栗原ら一行の到着を待ってくれていた。 「社長は今、談話室でお待ちです。病室だと気分が落ち込むと云われ」 町村が笑顔で言った。 「もう歩けるのか」 「はいっ、すっかりお元気…

何故 数年ごとに整理ノウハウ本がベストセラーになるのか

最近のベストセラーは 人生がときめく何とか って奴。 もう出尽くした感があったが (ときめく)なんと、そこに目をつけた著者 あんたの勝ちだ。 で 本題。 何故数年ごとに整理ノウハウ本がベストセラーになるのか? ズバリ 身の回りを整理出来ない者は絶対…

狂二 Ⅲ 断崖編 その38

2010年4月2日(金曜日)午前8時40分 白浜冷蔵冷凍株式会社 会議室 「昨夜はどうも」「お早うっす」 口々に、佐々木とヒロシが駆けつけて来た。 「どうもお疲れです。夕べは本当にありがとうございました」 栗原が頭を下げた。 あのあと、栗原は田辺…

狂二 Ⅲ 断崖編 その37

2010年4月1日 午後2時40分 普段なら喧噪を知らない田園地帯の向こうに、バイクの轟音が響いた。 「やっと来たみたいですわ」 ヒロシが腰を上げた。 道路側まで歩み、手を上げバイク集団に合図する。 「こりゃまた大勢で」 栗原がバイクを数えた。 …

この本、やばい!

先週末、某テレビ局では さながら(アンフェア祭)状態だった。ちなみに レギュラー放映の時は一度も観た事がないけど、特別版とか、劇場版とか見ると その面白さに すっかりハマってしまい、ついに原作本に手を出す羽目に。読み始めたばかりなのだが、面白…

狂二 Ⅲ 断崖編 その36

2010年4月1日 午後2時 顔馴染みになったコンビニに立ち寄り、3人分の弁当と茶を買った佐々木と栗原は ヒロシの待つガレージに急いだ。 だが着いてみると、ヒロシは広げたシートの上で農作業の格好をした夫婦らと車座になり、おにぎりを頬張っていた…

狂二 Ⅲ 断崖編 その35

2010年4月1日 午後1時30分 「プレタ・ジュテ人材サービス」パート従業員、陳麗花(24歳)は、 喫煙室をそれとなく観察していた。担当部署の電話交換の席から見渡せる場所に都合よくあった。 ようやく営業の藤田と、近沢が出て来るのを確認すると…

狂二 Ⅲ 断崖編 その34

2010年4月1日 午後1時すぎ 浩二は、耳の片隅で聞こえたバイク音の方向を頼りに、山を下った。 山から湧き出た清流は蛇行しているのか、一端遠ざかっていた筈なのに、再び川べりに出た。 バイク音の方向は、この先、清流からいよいよ離れてしまう。 最…

狂二 Ⅲ 断崖編 その33

2010年 4月1日午前11時半 田辺市立図書館 「恥ずかしながら、図書館は初めてですわ」 栗原があたりを見回しながら云った。 「似たようなもんです。私だって仕事じゃなかったらおそらく足を向けることなど」 佐々木が受付にショルダーバッグを預けな…

狂二 Ⅲ 断崖編 その32

2010年4月1日 午前10時20分 第二紀伊田辺ビル 101号室 宇佐美企画応接室 佐々木は、頭を抱え込んだ宇佐美社長を目の前にし、 強引に賃貸契約させたという某国議員の存在が気になった。 (またしても国際テロに発展する事件なのか) 麻田元首相…

狂二 Ⅲ 断崖編 その31

2010年4月1日午前9時過ぎ 樹々の葉が風にそよぐ音や、流れる川の音で浩二は目覚めた。久しく聴いたことのない野鳥の声も賑やかだ。 木漏れ日が差し込み、まぶしい。一日中降り続いた雨も上がったようだ。 太陽はすでに高い位置にあった。だが、春の初…

狂二 Ⅲ 断崖編 その30

2010年3月31日深夜 日付はまもなく変わろうとしていた。 雨はすっかり止んでいたが、かき分けるブッシュには無数の棘があり、 ポンチョ代わりのブルーシートを二人とも被ったままでいた。 例の崖を登りきったあと、獣(けもの)道すらない坂を転げる…

狂二 Ⅲ 断崖編 その29

行く河の流れは絶えずして、しかも、もとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消え、かつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。 /方丈記 鴨長明 より 体の慄(ふる)えこそ止まっていたものの、 ス…

狂二 Ⅲ 断崖編 その28

2010年3月31日 夕暮れ 浩二は雲の向こうの、かすかに見える太陽の動きから「時」を測っていた。 が、とうとう、はるか彼方海の地平線に沈もうとしていた。 もう夕暮れだというのか。あれから4時間以上経過している。 登っても登っても、一向にさき(…

狂二 Ⅲ 断崖編 その27

2010年3月31日午後0時10分 だが、 時計を持たない二人にとっては、正確な時刻など、知る由もなかったろう。 男が浩二の足元を見て云った。 「そのままじゃ、この崖は無理がある。脱いで、貸してみろ」 「安全靴で、丈夫だぜ」 「その丈夫さが、命…