2010年4月2日 午前10時半 田辺市民病院
町村は1階、玄関横のロビーで栗原ら一行の到着を待ってくれていた。
「社長は今、談話室でお待ちです。病室だと気分が落ち込むと云われ」 町村が笑顔で言った。 「もう歩けるのか」 「はいっ、すっかりお元気に。朝食もきれいに平らげられました。 風呂だって、久しぶりにさっぱりしたいと、先ほどシャワーを浴びて来られました」
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河本はテレビを見ていた。 頬のこけた、無精ひげだらけの昨日と打って変わり、生気がみなぎった表情をしている。 回復力も人並み以上のモノがあるのだろう。
栗原に続いて、佐々木とヒロシが続いて入った。 佐々木と、ヒロシを見るなり、 「おぉーっ、なんでまた」 驚きの声をあげた。 ヒロシがすかさず駆け寄り、ハグする。 「大変な目にあったな」
栗原に頭を下げ、気遣いながらも、ヒロシと佐々木との再会に喜びを爆発させた。
さらに、御坊のリーダーを見るや、 「おぉ!リーダー、昨日は世話になった」 「とんでもないっす。むしろ怪我させてしまって・・・」 頭を掻いた。
「栗原さん、そして皆さんご心配をかけました」 「ワシらは仕事の一環やから、礼を云うなら、オファーを出してくれたグループトップの高城社長やな」 ヒロシが笑った。 「まさかヒロシさんらと再会出きるとは夢にも思いませんでした。家島以来すね」
事情を聞き、浩二は佐々木事務所への転出を喜んだ。
「そうそう、心配と云えばこれや。充電しておいたから直ぐにでも使える」 栗原が河本の携帯を差し出した。
「あ、これ、何処に?」 「グランドホテルの宴会場に忘れてあった」 「多美恵。。。女房です、多美恵から連絡は」 「高城社長の方にだけあった。今回のことはヘタに心配かけたらあかんけん、行方不明の事は伏せてある、ワシらの判断や。すまん。もっとも白浜には直接の電話は無かったようや。よほどおまはんのこと、信頼してる証拠や」 「ありがとうございます」
「それより、早く奥さんに電話や、携帯ようやく復活したちゅうて」 ヒロシが冷やかす。
「それは後で・・・それよりリーダー、昨日の男は逃げたまま?」 「あ、はぃ」
「乗り逃げというか、奪ったその男のことやけど・・・」
浩二は 歓送迎会後、白浜冷凍倉庫。深夜に起きた一連の事をみんなに喋り始めた。
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「なんと、海に放り込まれたとは・・・」 全員が衝撃を受け、絶句した。
「それで、中国拳法の男とサバイバル生活する羽目になったです。 奴は”29号”と番号で呼ばれてました、明らかに何らかの組織の一員というのは間違いないです」 「だがその男、組織に裏切られちゅうか、見捨てられたのか。冷酷非情な集団やな」 ヒロシがつぶやく。
「私らが調べた集団に間違いなさそうだな」 佐々木が云った。 東南アジア系と思われる双子、冷酷なリーダー、それと浩二を倒したムエタイの男らの人相、体格などなど、 いずれも佐々木らが捜査した連中と一致した。
「あと、しきりに日時を気にしていました」 「それはおそらく・・・」 佐々木が4月4日の件を河本に説明した。 「29号も4日に参戦するつもりでいるのか、あるいは組織への報復の気持ちから、妨害する気持ちが芽生えたかどうかですね」
「ウチ(白浜冷凍)の埠頭を無断で利用し、運び入れた荷物。武器、弾薬の類(たぐい)だとすれば、かなり危ない4日ちゅうことや」
「これぐらいの段ボール箱に3つから4つあったです」 両手で大きさを作りながら栗原に説明した。
「県警へ早いこと行きますか」
栗原は佐々木を振り返った。
※ 時はおおよそ10時間前に遡る。4月2日 午前0時過ぎ。
紀伊田辺駅前。紀伊田辺第一ビル横。乗ってきた単車のエンジンを切り、様子をうかがう一人の男が居た。
玄関横の非常灯すら消えているビルを見上げ、怪訝な顔をした。 「ちっ、まさか」 舌打ちし、玄関ドアがあった筈の場所に立った。が、無機質に鈍く光る、閉じられたシャッターには、小さな張り紙が貼ってあるだけだった。
(長年のご愛顧ありがとうございます。本日を持って、閉鎖致しました。元々の計画より遅れましたが、10日より解体工事を・・・)
遠くで車の気配がし、途中で読むのをやめたが、 最後まで読まなくてもわかった。
「連中、どこに隠れ家を移したというのか」
あきらめ、バイクにまたがった。 フユーエルメーターの針はEに近い。 エンジンを捻りながら、顔なじみになったコンビニが少し先にあったのを思い出した。
「ワシの腹だけでなく、バイクも燃料切れが近い。少し用立ててもらうか」 スタートを切り、闇間に消えた。
※ 4月2日 午前11時20分 和歌山県警田辺署 第三応接室
佐々木、栗原、ヒロシの三人が待っていると、 「やあ、お待たせ、昨日はどうも」 総務課の田沼が入ってきた。 「んで、皆さんお揃いで一体何が始まるんです?」
(結構軽い男だな) 栗原は田沼を見た。
「防犯。。。いや、公安に関する責任部署の方を電話でお願いしていましたが」
「はぁ、それが、あいにく会議中なもので、私がお聞きし、後で伝えておくと云うことではどうでしょう」
(しっかり伝わるのか) 不安に思った栗原は佐々木を見た。 佐々木も同じ事を考えた様だった。 「4日、法王が来られる。だが危険が迫ってる。その件で 直接関連部署の方たちに説明したい」 佐々木が食い下がった。
「その、4日の警備の件で会議中なんですが」
「じゃあ、好都合じゃないすか、会議に参加させてもらいましょうや」 ヒロシが立ち上がる。
「そ、そんな・・・いきなり参加させる訳には、いかないです」 田沼が、慌てる。
「4日、あさってじゃろが。危機はそこまで来て事態は逼迫してる。ヘタしたら国際問題に発展やが、おまはん責任取れるんか?」 栗原の怒号が響いた。
「わ、わかりました。連絡してみます」 ようやく田沼は内線電話機を取った。
「は、はぁ、その4日の件で重要な情報があるとかで、こちらにお見えになってられ・・・確か、うちひとりは元大阪府警の方です」 田沼は電話に向かって何度も頭を下げた。
その後電話の相手とやりとりが続いていたが、 ようやく 「とりあえず署長が降りて来ますので少々お待ちを」
田沼は汗を拭った。
※ 同日 2日 午後零時 市民病院 談話室
そろそろ、昼飯の時間・・・ 浩二が、立ち上がりかけた時、テレビニュースで、“田辺”と読み上げているのが聞こえた。
深夜2時過ぎ、田辺市国道沿い 無線ショップの倉庫が荒らされ、 無線レシーバー一台と充電器一式が盗まれるという被害が出ました。 もの音に気付き、飛び出した店主 今岡良一さんの話によると 男は全身黒色のツナギを着ており、乗ってきたバイクで逃走したようです。 警察では逃げた男の行方を捜査しています。 では次ぎのニュース・・・・
(あ、奴だ。間違いない)
つづく ※ 当記事は フィクションですので 万が一、実在するいかなる個人、団体、地名とも 一切の関係は ございません
(-_-;)