小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

2011-02-01から1ヶ月間の記事一覧

狂二 Ⅲ 断崖編 その9

JR白浜駅ビルを出るなり、坂本社長と目があった。 なんと社長自ら、出迎えに来てくれて居たのだ。 坂本社長との不思議な縁(えにし)を 浩二は廻(めぐ)らした。 築港冷凍で働きたい・・との意思を固めたきっかけは、 なんと云っても面接のあとの見学で見…

狂二 Ⅲ 断崖編 その8

先週替えたばかりの 畳表の匂いが栗原の鼻梁をつく。 この匂い 何度嗅いでも好きだと思う。 空手道場で畳敷きはめずらしい。 白浜冷凍、坂本社長が私費で開いた道場。空手を母体としているが、時に柔道の寝技や、関節技も取り入れるので 途中 板敷きから柔道…

苦役クラブ

年末から今月にかけて、自分の中で”気にかかる”二組144回芥川賞受賞 苦役列車の西村賢太氏と Mワン準グランプリの スリムクラブの二組なのだ。 苦役列車 モツ焼きと焼酎が漂う 印象的な私小説だった。純文学系の本は 大枚を叩いてまで 買う方ではなかっ…

狂二 Ⅲ 断崖編 その7

目覚ましの電子音が、午前6時の空気を切り裂く前に、 額の冷たいタオルが浩二の目を覚ました。多美恵と目が合った。 「あ、ごめん起こしちゃった?」 「ずっと起きて居たのか」 眠る前の不快感は少し消えていた。 「凄い汗をかいていたから」 「ありがとう…

狂二 Ⅲ 断崖編 その6

浩二に背中を向けたまま、多美恵はまんじりともせず、 苦しそうな息遣いに耳をそばだてていた。 カーテンの隙間から少し覗く空はまだ闇に包まれている。 6時にセットした目覚ましには 時間があるようだ。 直ぐにも振り返り、声をかけてやりたい衝動に駆られ…