小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

2017-01-01から1ヶ月間の記事一覧

そして、池上線18

ドキドキしながら、受付へと向かった。 頭の中では、なんと切り出すべきかあれこれ考え、やはり引き返そう とか、あ、いやいや、やはり返却期限のことも気がかりだ。と 自分を奮え立たせたりした。 だが え? 受付には高野さんの姿はなく、時おり見かける職…

そして、池上線17

(あら。今日は遅かったですね。授業の居残り?) 低いトーンの、けれど可愛い唇から発せられた声が 耳から離れない。 誰に対しても笑顔を見せるヒトだけれど、いつもは無口で 人に対して、気安く声をかけるタイプの人ではない。 いや、なかったと思う。そう…

そして、池上線16

「あら、今日は遅かったですね。授業の居残り?」 受付を通り過ぎる時だった。いきなり彼女が声をかけてきた。 大学構内にある図書館に通い始め、おおよそ2週間。 彼女とは、すっかり顔なじみになったとはいえ、 最初の事務的に交わした会話以外、まだなか…