小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

2012-09-01から1ヶ月間の記事一覧

ミモザの咲く頃に その39

振り返った時、愛くるしい瞳があった。やがて彼女の唇がすぐ目の前にきて「今日はありがとう」素早く言うや、僕の口を塞いだ・・・・それは思いもよらない甘い出来事だった。ラ・カンパネラの旋律が大きく鳴り響き、胸を打った。すっかり夜の帳(とばり)が…

ミモザの咲く頃に その38

ふと、今でも僕はあの夜、何ゆえあの横断歩道を渡り、あの公園に向かったのだろう。そう考え込んでしまうことがある。色々な思いが錯綜し、堂々巡りを繰り返すのが常なのだが、結局のところ、純潔で氷のような透明感を持つ石坂美央に対し、梅田のゲームセン…

ミモザの咲く頃に その37

目の前には石坂美央の笑顔があった。BGMのクラシックは二人の会話を邪魔することなく静かに流れ、23階から見下ろす大阪の街はあの雑多な喧噪が嘘のようにどこか牧歌的な風景を映し出している。梅雨明け宣言はまだにもかかわらず本格的にやってきた快晴の夏…

ミモザの咲く頃に その36

その当時、家から梅田へ出るには、ふたつの方法があった。 ひとつは天満橋あるいは淀屋橋まで私鉄を利用し、そこから地下鉄に乗り換える方法。もう一つは京橋駅で国鉄(JR)の環状線に乗り換え大阪駅へ向かう。というもの。利便性の点で言えばどちらも似たよ…

泣きはしなかったけど

前評判通りのしみじみとした良い本だった。 先ず、タイトルがいい「猫なんか、よんでもこない」飼ったことないけど 恐らくそうだろう って思う。 作者の経歴がまたいい。(マンガなど描いたことない元ボクサー)「猫など 飼うつもりは全然無かった」 と言う…

ミモザの咲く頃に その35

「じゃあ始めよっか。森野君、君が乾杯の挨拶や」広報室長の三宅祐司がビールを注いだ。 「えー僕が。。。そんな畏れ多いです」 急に振られあわてた。 「結果が出るんはまだ先やけど、反響を呼ぶのは目に見えたある。すべては君のアイデアから始まった」 「…