小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

2012-01-01から1年間の記事一覧

ミモザの咲く頃に その53(最終回)

「あー、その香り。。。またあの女(ひと)と一緒だったでしょ」 病室に入るなり美央が口をとがらせた。 「またぁ。少し打ち合わせをしてただけやん、談話室狭いから香りだけが移って」 「あ、真剣に反応するその顔、怪しすぎ。キャハハ」 ひとしきり僕をか…

ミモザの咲く頃に その52

BAR鳥越の店内は幸いにも先客は居なかった。 とりあえず、僕は前村と訪問した理由を述べた。 マスターは国光が抱える事情を幾分なりとも知っていたのだろう、 「はい、承知致しもした」 と快諾してくれた。 「それにしてもお嬢はんがピアノも習っていたと…

ミモザの咲く頃に その51

こころなしか、垣根から見える花たちには、どこか淋しげな表情があった。思わず空を見上げた。抜けるような青空。こんなにも小春日和の穏やかな日だと云うのに。「くれぐれもご心配は無用ですから」美佐江さんの言葉だったがその日の午後、僕は私用外出の許…

ミモザの咲く頃に その50

翌、木曜の朝が明けた。と言っても窓の向こうはまだ暗闇だ。 時計が鳴り響く前には目覚めていた。 この頃、すっかり酒の席に慣れたのか、以前のような二日酔い気分はなかった。 けれど昨夜とうとう連絡のつかなかった石坂美央に対する心配が重くのし掛かって…

ミモザの咲く頃に その49

「え!森野さん?」。。。前村の声には驚きがあったが、驚くのはこっちの番だ。彼女の家は確か大阪市内のはずれ、地下鉄の時間で云えばここから3、40分ほど向こうではなかったか。「前村こそどうしたん。飲み屋街でひとり買い物袋提げて、こんな夜遅くに…

気がつけば すでに最終章

あっという間の一年でした。 ミモザ。。。 けど、 物語とは言え 簡単に人の生命を(あれこれ)するのて 凄く悩みが出てしまってます。 結末は未だ思考錯誤の途中。 中途半端で終わらせたい気分。

ミモザの咲く頃に その48

「ワシも。ちょいと失礼」国光が木内社長と入れ替わるかのように、席を立った。「しかしまぁ思いの外、元気そうで安心しました」木内社長がビールを傾けてきた。「あ、どうもすみません」ビールを受けながら、(家庭の事情はどこまでご存じなんだろう)木内…

この手の本には見向きもしなかったのだが

○○な僕でも ○○稼ぐ とか○○な僕が起業に成功した とかの ノウハウ本。 タイトルに惹かれ つい手に取ってみたり は遠い昔の話 たいがいは その本人にだけに取得できる(コツ)だけが散りばめられてあり 他人が 簡単に取得できる訳など、絶対無いのである。 従…

ミモザの咲く頃に その47

ここがあの大井屋か。。。老舗の高級料亭。大阪市内、それもミナミのど真ん中にあるにもかかわらず、まるで山峡の宿に来たような風情があった。贅沢に広々と面積を稼いだ庭園には様々な樹木が生い茂り、苔蒸す池には朱赤の太鼓橋が架けられていた。きっと一…

ミモザの咲く頃に その46

そのビルは心斎橋百貨店のすぐ裏にあった。 だが、華やかな照明に彩られた百貨店とは対照的に、ひっそりと佇む古びた建物で、老朽化が進んでいるように見えた。一階にはこれまた古ぼけたビルに似つかわしい喫茶店があった。喫茶店と断言したのも、喫茶なんと…

ミモザの咲く頃に その45

レッスンもひと区切りついた処で、いつもの休憩タイムに入った。「ついさっき焼きあがったばかりなの」と美央が初めて挑戦し、しきりと気にしていたクッキーをほおばってみた。「どう」心配そうに僕の口元を見つめ訊いた。「あ、全然いけるわ、めっちゃ美味…

ミモザの咲く頃に その44

時は流れ、壁のカレンダーも残り1枚半を残すのみになった10月。それも早や半ばを過ぎていた。昼間は暖かくても、朝晩はめっきりと冷え込む事が多くなった。山下ゆり恵サヨナラコンサートも大盛況と興奮そして感動を残し無事に終了した。国民から幅広く支…

雪国 2

前回、「雪国」の本について書いたのはいつだったかと、遡ってみると なんと八月だった。 実は すっかり、雪国(川端康成著)に、はまり込んでしまい あれから何度も何度も読み返し 今だに鞄に入れたまま持ち歩いてるのだ。 恐らく今ので九回目の読み返し。…

ミモザの咲く頃に その43

どんなことがあっても、定時で仕事を終え会社をあとにせねばならない木曜日。その時間が迫っていた。一応時計は目に入ってはいた。が、もう少しのところで仕上がる書類にペンを走らせていた。すると 「森ちゃん、そろそろ時間ちゃうか」 思いがけず横山先輩…

ミモザの咲く頃に その42

その年の7、8月ほど、長く感じられた年はなかった。 壁にぶら下げられたカレンダー。7、8月のページ上半分の写真はどこか外国のリゾート地なのだろう、真っ白な砂浜。真っ青な空と海が広がっていた。だがその下半分、ほとんどは黒インクの数字で埋め尽く…

ミモザの咲く頃に その41

「らっしゃい」ゃい」 戸を開けた瞬間に飛びこんできた二人の声は重なっていた。小柄だが、浅黒く精悍な顔つきの主人と眼があった。 「ようお越し、せんだってはおおきに」「いえ、こちらこそ」思わず頭を下げた。 たらふく飲んで食べたにもかかわらず、二人…

ミモザの咲く頃に その40

早朝の会社の廊下は薄暗く、どこかひんやりとした空気が流れていた。 だがそれは外の気温の高さによる錯覚なのだろう。その証拠に雨でやや肌寒い朝など、建物に入ったとたんむっとする熱気が襲ったりする。ぎらぎらと太陽の照りつけた今朝の場合、建物の中は…

ミモザの咲く頃に その39

振り返った時、愛くるしい瞳があった。やがて彼女の唇がすぐ目の前にきて「今日はありがとう」素早く言うや、僕の口を塞いだ・・・・それは思いもよらない甘い出来事だった。ラ・カンパネラの旋律が大きく鳴り響き、胸を打った。すっかり夜の帳(とばり)が…

ミモザの咲く頃に その38

ふと、今でも僕はあの夜、何ゆえあの横断歩道を渡り、あの公園に向かったのだろう。そう考え込んでしまうことがある。色々な思いが錯綜し、堂々巡りを繰り返すのが常なのだが、結局のところ、純潔で氷のような透明感を持つ石坂美央に対し、梅田のゲームセン…

ミモザの咲く頃に その37

目の前には石坂美央の笑顔があった。BGMのクラシックは二人の会話を邪魔することなく静かに流れ、23階から見下ろす大阪の街はあの雑多な喧噪が嘘のようにどこか牧歌的な風景を映し出している。梅雨明け宣言はまだにもかかわらず本格的にやってきた快晴の夏…

ミモザの咲く頃に その36

その当時、家から梅田へ出るには、ふたつの方法があった。 ひとつは天満橋あるいは淀屋橋まで私鉄を利用し、そこから地下鉄に乗り換える方法。もう一つは京橋駅で国鉄(JR)の環状線に乗り換え大阪駅へ向かう。というもの。利便性の点で言えばどちらも似たよ…

泣きはしなかったけど

前評判通りのしみじみとした良い本だった。 先ず、タイトルがいい「猫なんか、よんでもこない」飼ったことないけど 恐らくそうだろう って思う。 作者の経歴がまたいい。(マンガなど描いたことない元ボクサー)「猫など 飼うつもりは全然無かった」 と言う…

ミモザの咲く頃に その35

「じゃあ始めよっか。森野君、君が乾杯の挨拶や」広報室長の三宅祐司がビールを注いだ。 「えー僕が。。。そんな畏れ多いです」 急に振られあわてた。 「結果が出るんはまだ先やけど、反響を呼ぶのは目に見えたある。すべては君のアイデアから始まった」 「…

ミモザの咲く頃に その34

ようやく国光常務との電話が終わった。 (明日はいつも通り出社やから心配には及ばない。もちろんピアノも予定どおり伺う。美央さんに宜しく伝えておいてくれ) の言葉にひと安心した。 しかしまあ、あの田代さんが常務の娘だったとは。。。 あ、と再び中学…

雪国

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。 ご存知、川端康成著「雪国」の あまりにも有名な書き出し部分である。 あまりにも有名な 冒頭部分だけが、もの心ついた時から頭に刷り込まれ、一度だって読んだ事も無いのに 読んだ気になっていた。 先日、本屋…

ミモザの咲く頃に その33

二週間ぶりの石坂邸。。 垣根に咲いていたはずのアジサイ。花びらこそ散ってはいたが、 葉は健在だった。雨水をたっぷり吸いあげ艶やかな緑の光沢を放っている。夕方とは云え雨上がりの陽は高く、その光を受けきらきらと宝石をまぶしたかの如く輝いていた。…

ミモザの咲く頃に その32

窓の向こうに 朝が来る愛は醒めて 水になるまわれ涙を 散りばめて あなたは まぼろし・・・・・ / 里村龍一 作詞、浜 圭介 作曲、島倉千代子 唄「夢飾り」より耳をつんざく電子音が断続的に鳴っている。一体なんだぁ?首を捻った向こうに目覚まし時計があっ…

ミモザの咲く頃に その31

「お待たせ」 息せき切って、駆けつけてきた前村は、 雨の中を走って来たのだろう。座敷に上がり込むやへたり込み、背中を大きく波うたせ息を整えた。 「まあまあ、そないに息せき切って。走ってきたん?とりあえず”お冷や”どうぞ」 「ありがとうカズエさん…

ミモザの咲く頃に その30

梅雨入りが遅かった分、6月末から7月にかけ、連日のように雨が続いていた。じめじめと、湿気が高い割に気温そのものは案外低かったりする。つい扇風機の風や、エアコンの冷気に頼り過ぎ、風邪など体調を崩しやすいのもこの時期だ。ジャンニ・ビアンコとの…

ミモザの咲く頃に その29

結局、そのオモチャのピアノは、妹の部屋の押し入れの一番奥、さらに一番下にあった。最初、妹の部屋からスタートしたところ見つけられず、「もしかしたら両親の部屋かも知れない」妹が言いだした。両親の部屋を皮切りに、あちこちの部屋の押入れを順に探し…