小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

ミモザの花の散ったあとに

ミモザの花が散ったあとに 43(最終回 後編)

「えまあ、人探しですわ。森野はんの依頼で。。。。あ、つい依頼者の名前出しましたけど、忘れて下さい」 「えぇ心得てます。で、もしや篠原さんを捜しに。。。。」 え、それをなぜ。。。。。。ヒロシはキョトン顔を私に向けた。こちらの表情を伺いながら「…

ミモザの花が散ったあとに 42 最終回 前編

森野は、カクテル雪国を”くいっ”とあおると、誰に言うともなくつぶやいた。「さてと。。。」機先を征するように「しっかしまぁ、案山子と書いてカカシと読む。実は私も知りませんでした。はは。」わざとおどけてみた。だが森野はそれを無視するように「あの…

ミモザの花が散ったあとに 41

(例の続き。。。)ぼそりとつぶやいた森野の声だった。すっかり忘れていて、「続き。。。て何の?」と一端、訊き返してしまい、あ。と思い出した。「あ。ミモザの。。。」「はい。。。」森野の眼は、なにか覚悟を決めたようでもあった。「清水先輩やタカタら…

ミモザの花が散ったあとに 40

仕事の面では上々のスタート。。。だが一方。。。要するにプライベートに関して言えば、なにがしかの波乱があったに違いない。その、続き話の件で誘ったのだろうけど、森野はなかなか切り出そうとはしなかった。というより、バー鳥越のマスターを目の前にし…

ミモザの花が散ったあとに 39

BAR鳥越。。。回顧録に1、2度登場したのを読んだだけなのに、なぜか視覚の記憶にあった木製の看板。見事なまでに健在だった。良質の刷毛で、ニスを何度も塗り重ねたのだろう。渋い琥珀色に染まった厚さ5センチほどの板。匠の技としか思えない彫刻によ…

ミモザの花が散ったあとに 38

地下鉄の階段を上がり、え!と思わず左の袖をめくり上げた。なんだやはり。だが6時を回っていると言うのに、この昼間の明るさは。。。知らないうちにも、季節は着実に巡っていた。夕方、時として昼間から深夜まで、テレビ局の一室に缶詰になり、延々と続く…

ミモザの花が散ったあとに 37

順調な時ほど、どえらい事が起きる・・・・国光常務の名言だが、逆に言えばどえらい後には、幸福がやってくる・・・とも、言えまいか。。。。突然だったカルベロの来日から早や1ヶ月。清水の発言をきっかけに、ひと騒動あった初の会合。だが、それが効を湊…

ミモザの花が散ったあとに 36

清水の全面的な謝罪(と言っても、カルベロもほぼ同時に頭を下げ謝罪した)から、会議は無事に再開された。だがしばらくは、船場側、カルベロともに大声を上げての議論が飛び交った。それほどお互いに、企業としてありがちな、いわゆる建前などまったく存在…

ミモザの花が散ったあとに 35

「ここはひとつ。。。。相手は女性」「う、うん・・・・。」「アメリカではレディファーストの国。とりあえず一歩譲って先に謝罪してはどうでしょう?」「は、はあ!?」そして清水は、疑念の眼を向けたあと「なんでやねん」とふてくされた。「それオカシイ…

ミモザの花が散ったあとに 34

「はい了解しました。もう結構です。今後船場さんとの交渉は二度とすることは無いでしょう。では皆様サヨナラ」通訳が言い終えるのと同時だった。ガタッ。椅子の音を派手に響かせ、カルベロは席を立った。一瞬のあいだ会議室は静寂に包まれる。だが、「あほ…

ミモザの花が散ったあとに 33

「いいですか皆様。何も主張しない。いや、主張して欲しくない。これが新しい私のファッションスタイルとご理解ください。以上、わたしの挨拶に代えさせていただきます」それまでは、カルベロによるテーマ説明と、彼女の言葉を訳す社員の声だけが静かに響く…

ミモザの花が散ったあとに 32

カルベロは、コヤツ一体何者?的な視線を僕に向けていたが川村の紹介に、「オーミスターモリノ。ナイスミーチュー」と手を差し出してきた。どのように返していいものか、どぎまぎしながら 「は、ハロー」と応えた。それだけで一日分の汗をかいた気がした。席…

ミモザの花が散ったあとに 31

「森野君、すまない」中沢の手招きに「はい課長」と勢いよく反応したものの、(やはり来たか)と思った。心と足が重くなった。案の定、中沢は「先ほどから電話してても、らちが行かない。向こうの様子を確かめてきて欲しい」と頼んで来た。やはり・・・「三…

ミモザの花が散ったあとに 30

用を足し廊下に出てみると、タケさんの背中が見えた。近づいてみると手すりにもたれ庭の方を眺めていた。わざわざ待ってくれていたのだろうか。眼が合うと「もうすっかり、あれでんな。お元気そうで何よりですわ」と笑った。「え・・えぇまぁ」昨夜の記憶は…

ミモザの花が散ったあとに 29

(まだまぁ若いけん、これからなんぼでん、あろうが)ふいに、あの駅員の言葉が聞こえた。それは聞こえたと云うより頭のてっぺんから、突然鳴り響いたという感じだった。はっ。と目覚めると豆球の小さな灯りが見えた。え。。。ここは?蛍光灯の豆球だけが照…

ミモザの花が散ったあとに 28

洗面所で顔を洗い、暖簾をくぐり出るとタカタが廊下の壁にもたれ佇んでいた。タカタもかなり呑んだ筈なので、たんなる酔いの影響なんだろうけど、すっかりしょげていた。僕に気づくと、ぴょこんとお辞儀をするや駆け寄ってきた。「どうぞ。。。これ。フロン…

ミモザの花が散ったあとに 27

あの日、力になれなくゴメ ン。今更やけど、そしてキ ザな言い方をするけど、こ んごは何でもかんでも、 この私に相談するよう。 5月6日。7時。。。。慣れない日本酒にしたたかに酔っているはずの頭に、突如浮かび上がった前村のメモ。だがそれは映像のよ…

ミモザの花が散ったあとに 26

篠原さん宅のベランダに咲いていた白い花。(カラーと言う名前だったのか・・・。)心の中でもう一度つぶやきながら、図鑑を棚に戻した。別に名前が分かったところで、今さらどうと言うこともない。だがあの花に巡り合わずとも、どこかでその名前を耳にする…

ミモザの花が散ったあとに 25

部屋を出る高田の背中を見送りながらぼんやりとしていたものが、カタチとなって現れたと思った。しかし清水先輩は「これのどこが格好いいねん。。。わからんわ」ぼやきながら「課長もそう思いまっしゃろ」と中沢に同意を求めた。中沢は、いや、とかぶりを振…

ミモザの花が散ったあとに 24

「仕事着というより、米軍の払い下げやな。」清水のひと言に、営業部員たちは「あ、まさしくそれですやん」とか「信じられへん」「こんなん、ファッションとちゃうやん」など口々にぼやき始めた。中沢は?と見ると、手元に戻った写真をにらんだまま、ピクリ…

ミモザの花が散ったあとに 23

船場商事・繊維事業部としては、二例目となるデザイナーブランド(カルベロ・クラロ)だが、注目のブランドらしく他社においても角紅商事を筆頭に2、3の商社やメーカーが名乗りを上げていたという。だが、前回と同様、破格値的な条件を提示し、他社を寄せ…

ミモザの花が散ったあとに 22

前村のメモから、突然に浮かび上がった言葉(あんざんこ)。単なる偶然?いやいや、それはまずないだろう。あらためてメモを見なおしてみると、不自然な改行は、この言葉を伝えたいがためだとよく分かる。。。こころもち左側の文字が大きいのも決定的と言え…

ミモザの花が散ったあとに 21

出勤前の鬱々とした気分。あれは一体何だったと言うのか。あれこれ悩み、悶々としながら日々を暮らしたここ数カ月のことが、急に虚しく思えた。たった一度きりの人生、これからは前だけを見て生きようと思った。もちろん、これからも障害物に突き当たったり…

ミモザの花が散ったあとに 20

まさか中沢課長は階段をかけ登って来たのだろうか。少し息を弾ませている。目が合いそうになるのを避けるように頭を下げ「わざわざすみません。」と詫びた。「え、まあ。はぁはぁ」「長いあいだ勝手しました。本当に申し訳ありません」中沢は前髪をかきあげ…

ミモザの花が散ったあとに 19

前村を見送ったあと、三田村は腕時計を確認した。「そろそろ8時半か、中沢も来てる頃やな」いよいよか、と胸がどきりとした。「けどその前にや、森野」「あはい」「ほんまに大丈夫なんか」「えぇまぁ。。。」「その、まぁのあとの沈黙は何やねん」「あいえ…

ミモザの花が散ったあとに 18

敷居が高い。そのような言葉があったと思う。まさにそれだと思いながら、従業員入り口のドアを開けた。くぐり抜け、少し進むと右から3番目に繊維事業部のタイムカードがある。さらに営業一課を先頭として左側へずらりと続き。。。ふと、自分のカードは無い…

ミモザの花が散ったあとに 17

少し前の自分なら、資料室を兼ねたこの図書室に来なかっただろうなと、ふと思った。それも昼休みに、わざわざ休憩時間を削ってまで。図書ルームは読書好きの女子社員たちで賑わっていた。入ってすぐの壁にジャンルごとの配置図が掲げられてあった。さっそく…

ミモザの花が散ったあとに 16

「お客さん大丈夫ね?」ふいに頭の上で声が聞こえた。見上げると年輩の駅員がチリ取りと、箒を手に立っていた。早朝出勤のとき、決まって出迎えてくれる顔。色黒の。だが、いつも苦虫を噛み潰したような不機嫌まるだしで。。。ベンチでうなだれたままの客に…

ミモザの花が散ったあとに 15

便せんの上に、さきほど引きちぎった封筒の先っちょが滑り落ちた。 え。いつだったか前にもこんなコトが。。。とあれこれ記憶をたぐり寄せる。 あ、長澤。。。あの夜。雅恵からの・・・ もう1年も前、いや、まだ1年・・・というべきか。。。 涙とともに読…

ミモザの花が散ったあとに 14

川の方角を眺めたまま、佇んでる僕に、篠原さんは「時間ある?ちょっと休んでいこか」と護岸を指さした。僕は「えぇ、もちろん」そう云いながら空を見上げた。太陽は厚い雲に覆われているものの、まだ高い位置にある筈。自分の時間について云うならたっぷり…