小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

ミモザの花が散ったあとに 36

清水の全面的な謝罪(と言っても、カルベロもほぼ同時に頭を下げ謝罪した)から、会議は無事に再開された。
だがしばらくは、船場側、カルベロともに大声を上げての議論が飛び交った。
それほどお互いに、企業としてありがちな、いわゆる建前などまったく存在しない、本音だけがぶつかりあう、実のある真剣な議論だったと言えよう。
 白熱し、ますますヒートアップする会議室だったが、次のやりとりをきっかけに、静かな空間へと移り変わった。

「ですが私からも、もう一度お尋ねします。先ほど清水が申したように以前のデザインは、やや奇抜さがあったものの、それなりに他ブランドと差別化が出来ていたと思うのです。何よりブランドとしての華があったように思います。ですが本日紹介されたデザインプランは、何の変哲もないスタイルとお見受けするのですが」
清水に続いた中沢の質問は、言葉づかいこそ丁寧だが、核心に触れた質問だった。その証拠に通訳が訳し終えるとカルベロの表情に変化が見られた。



カルベロの長い沈黙が続いたが、ようやく静かな口調で語り始めた。

船場側から、英会話に心得のある者からは、時おり軽いどよめきが起きた。

少し長いカルベロの演説がようやく終わり、必死にノートに書き写していた通訳の子。
吊られるように静かな口調で語り始めた。。。

そうですね。確かに。。。最初から説明すべきでした。申しわけありません。
皆さん。今から私の国、アメリカの話をします。けれどこれはアメリカだけじゃなく世界に共通するコトかも知れません。
全米のティーンエイジャーの女の子たち。その8割以上は自分の容姿にコンプレックスを抱き、しかもそのうち半数の子は、自死まで考えた事があると云うのです。
この数字は私にとり、衝撃以外の何ものでもありませんでした。今までのファッションの世界。。。
テレビや雑誌のグラビアを華やかに飾るファッションモデル。。。ハンコを押したように皆、色白で、股下がスラリと細く長い。。そういうモデル女性たちがスポットライトを浴びれば浴びるほど、強い羨望と絶望感に打ちひしがれる少女たちが居たのです。。。

通訳の子は、ここで言葉が詰まった。自分にも当てはまるモノがあったと云うのか。

夢を与えるはずのファッション。。けれど現実には、大多数の少女、いや大人の女性たちもそうなのでしょう。彼女らにとっては、大きい悩み、羨望、ねたみ、絶望以外の何ももたらさなかったのです。恥ずかしながらその事実に気づかされたのはごく最近のことなのです。
しばらくは何事も手をつける気にはなりませんでした。過去のすべてを捨て去ろうと決め、この世界からの引退も考えていたのです。

周囲の席から軽いどよめきが起こった。

そんな時です。カリフォルニアの牧場で働くというひとりの少女から手紙を受け取りました。
手紙にはこうありました。
ハイスクールに通っていた頃はあなたの服が大のお気に入りでした。けれど、倒れた父のため牧場で働かざるを得ず、寂しい毎日です。そのような文面が綴られていました。そして読み終え、ハッと思いつくものがあったのです。まだこの私にもなにかお手伝いが出来るものがあるのでは?。例えば働く女性たちの為のファッションもあったっていいじゃない?と。

(あ、あの長靴ファッションか。。。)
清水もそれに気づいたのか、それまでやや高圧的な姿勢で聞いていたが、組んだ腕を解くや、座り直した。

そして、タイミング良く、今回のジャパンからのお話。ジャパンと言えば禅。無の世界。
無こそ最大。最強。ファッションの世界にも、なんの変哲もない、ごくありふれた世界。まったく平凡なスタイル、色、柄、素材、で作り上げたカジュアルも、ひとつぐらいあったっていいじゃない?そのコトに気付かされたのです。
何も主張しない。いやしたくない。これこそ、長年追い求めていた真のブランドテーマなんだと。
そもそも私がこの世界に入った理由と狙い。
それは女性たちに開放や夢を与えたい。すっかり忘れかけ、崩されようとした当初の希望が、奇跡の復活を遂げようとしたのです。
ですから。。。今回の大きい方向転換のきっかけ。どうか皆様、ご理解いただけるでしょうか。

通訳の子、最後はとうとう涙声になりながらの通訳だった。
全員が息を呑み、静まり返った。

だが、すっくと清水が立ち上がった。
横の中沢が えッと身構えるなか
やがて清水の絶叫とも言うべく声が、拍手とともに会議室に響き渡った。

「ベリーナイス。ミスカルベロ!!」

                      
                         つづく
※ 言うまでもありませんが、
当記事は フィクションです
万が一、実在する、あるいは良く似た、いかなる個人名、団体名、地名、出来ごと、などが出現しようとも 一切の関係はございませんので。
あと、ついでに言わせてもらうならば、これは「ミモザの咲く頃に」シリーズの続きでもあります。

(-_-;)