小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 2 波濤編

三ヶ月ぶりの エピローグ。。。のようなモノ

「まもなく姫路、姫路です。乗り換えのご案内を申し上げます・・・・」JR東海道本線、大阪から乗った新快速の播州赤穂行き列車では車内アナウンスが始まった。「さてと いよいよ 最後の難関だわさ・・・」ひとりごちながら 山陰日日新聞 元政治部記者 寺島…

続・狂二 波濤編71 最終回

「秀よ、あ、あれ・・・・」 ウメ島の山中に埋められていた プルトニウムをやっとの思いで 掘り出した長谷川が沖合いを指差した。 「あーん どうした」 200kgの塊を縛り付けた二本のロープ、一方を引いている 秀じぃは それどころやないけん と言いた…

続・狂二 波濤編70 最終章後編その九

原油タンカー・・・黒々とした島影にも似た 巨体は咆哮を挙げ目標物(ウメ島)に向かって波飛沫を上げた。船長が タンカーの進行方向を変えようと何度か試みたが、その都度、左右を取り囲んだテロリストらに、顔面や体を殴られた。「あ、止めろ」ゴン、ヒロ…

続・狂二 波濤編69 最終章後編その八

ハウス内のテロ兵士ら全員を気絶させたあと、佐々木の指示で凶器類 無線など全部押収 一箇所に集めた。「残るは 上、ブリッジ(操舵室)だけや」言うなりヒロシが派手な音を立て階段を駆け昇りだした。「まっ、待て」慌てて佐々木が制した。4、5段目のとこ…

続・狂二 波濤編68 最終章後編その七

持参した小説本 くぎりのよい章を読み終えると、多美恵は枕もとの電気スタンドに手を掛けた。横からは 思春期真っ只中、いかにも健康的な少女本来の寝息がようやく聞こえてきた。彼女の まだあどけなさの残る寝顔を見つめながら 「ゴンや秀じぃらが帰って来…

続・狂二 波濤編67 最終章後編その六

ハウス内は空調も効き先程までの、船底特有の轟音や体に纏わり付く熱気、湿気も無縁で、 快適な風が流れていた。奥に見える部屋に貼り付けられた“食堂”と書かれたプレートが“なごみ”を感じさせた。が いきなり厳しい現実に引き戻される・・・武装のテロリス…

続・狂二 波濤編66 最終章後編その五

「おっさんよー、ほんまに乗り込むんけ」タオルで捻りハチマキの若い漁師 小栗が云った。「ああ・・・ここまで有難う」タンカー横壁のタラップに手をかけたまま 寺島が返した。ふと漁船に書かれた 「晴美丸」の文字を思い出し、「晴美丸の晴美て・・・」尋ね…

続・狂二 波濤編65 最終章後編その四

海の彼方に見えていた 黒い島のような影・・・ようやく近づくと 影の正体がくっきり姿を現した。やはり大型の原油タンカーだった。山陰日日新聞 記者 寺島は キャビンの若い漁師に尋ねた。「嵐に巻き込まれたのか、こんな場所で立ち往生かな」「そりゃ違うな…

続・狂二 波濤編64 最終章後編その三

午前1時を回っても テロリストからの連絡は途絶えたままの首相官邸対策本部では 全員眠気が充満していた。「奴らから連絡があったら起こしてくれ」福谷首相が椅子の背もたれに体を預け、うとうと 始めた。それをきっかけに 何人かの大臣連中も テーブルに臥…

続・狂二 波濤編63 最終章後編そのニ

大沢とリ・スンヨクの二人を残して エンジンルームを出、しばらく歩いた時だった。コツンッ コツ コツ・・・複数の軍靴が背後から聞こえたかと思ったその時 バッ バババババーン 機関銃の銃声 同時に足元の鉄板やら側壁を打ち砕いた。「トマレ」片言の日本語…

続・狂二 波濤編62 最終章後編 その一

最初にヒロシが気づいた。ロープで縛られていた筈のテロ兵士が 後ろ手で無線を呼び出していた。「あー この野郎、無線を呼び出してやがる」云いながら無線機を操作していた片腕を蹴り上げた。皆が振り向くと 最初にキムに顔面をやられ 最初に倒れこんだ兵士…

続・狂二 波濤編61 最終章中編 続き

ローレンスの無線が鳴った。「もうすぐ 監視役の連中がやってくる」ローレンス、キムジョナンら以外の連中にも我々を監視させるらしい。キムが無線の内容を通訳した。 ほどなくして、エンジンルーム前に何人かの靴音が聞こえた。 「ひとまずそいつらを叩く」…

続・狂二 波濤編60 最終章中編

「stop!and wait」頭上の甲板から命令口調の声が降った。コージらに緊張が走る。見上げると2,3人の見張りの隊員がパイプ状の手すりから身を乗り出し我々に機関銃を構えていた。先頭を昇っていたローレンスが我々を指差し、その隊員に何やら話し込んだ。…

続・狂二 波濤編59 最終章前編

首相官邸では 表向きの「西日本熱帯性低気圧発達に関する危機対策センター」に 川村官房長官に伴われて 関東電機大学工学部原子力応用学科 山澤克哉教授が入ってきた。『やっとか・・・もっと早く連れて来いちゅうに』官邸職員の細川が毒づいた。福谷首相が…

続・狂二 波濤編58

「みんな 乗り込む前に 再確認や」大沢団長が オイルタンカーの設計図を元に書いた簡単な見取り図を見せた。「ここがハウスつまり事務室やら乗員の為のベッドルーム、食堂がある、ハウスの真上が ブリッジ 操舵室や」「じゃあ我々は ハウスに?」「多分それ…

続・狂二 波濤編57

「大沢団長あてに FAXが来てますけど」渡辺電気店の店主が 民宿はせ川にやって来た。「おう すまんな 電話回線殆んど直ったんやな」回線ぶった切ったこいつ等から 修理ポイント教えてもらいましたんで。。渡辺はキムらを指差しながら、FAX用紙を手渡し…

続・狂二 波濤編56

「ワッタム ナウ!」壁側向きで横になっていたローレンスが突然起き上がり叫んだ。対策を協議していた一同 振り返る。「あーん、おいキム、何言ってるんや 早よ訳せ」ヒロシが横のキムジョナンのわき腹を突っつく。「What time now・・・つまり 今 何時だ? …

続・狂二 波濤編55

コージ、高城常務ら一行に 捕獲され合流したキムジョナンの通訳により、自称イラン人 ローレンスの取調べはより一層進んだ。キムの横にへばりついたヒロシが怒鳴る。「嘘っぱちな通訳したら承知せえへんぞ。それに分かっとるやろなぁ、あん時の落とし前つけ…

続・狂二 波濤編54

外苑前から飛び乗ったタクシーの運転手は東北出身らしく、「お客さん 東京駅なら地下鉄の方が早くないだべか」如何にも朴訥を絵に描いたような初老の運転手だ。上着の袖を捲くった。腕時計は16時半少しを回っていた。山陰日々新聞 記者 寺島は 携帯のフリ…

続・狂二 波濤編53

「しかしまあ、よく官邸を抜けられましたなぁ」山陰日々新聞政治部記者 寺島は 目の前に座った 官邸職員細川に声を掛けた。「どうも、お久しぶりです」すかさずやって来たウエイトレスに 「ホット」頼んでから 「ショートケーキも。あ、ショコラで」「かしこ…

続・狂二 波濤編52

「俺を釈放せよ、さもなくば まもなくやってくる本隊により島全体が吹っ飛ぶ・・・キムら二人も事実は知らされていない」急ごしらえの学生通訳の口から出た思いもよらない言葉に 一同耳を疑った。「おいッ 出鱈目ぬかすと、承知せえへんぞ」大沢団長がローレ…

続・狂二 波濤編51

地下鉄永田町駅構内の柱時計は3時少し前を指していた。寺島は 何気に 「そろそろ休憩時間か・・・ しかし首相官邸に果たして休憩時間など あるのやら・・・」行き交う人々の蒸せるような熱気に押されながら 考えた。いつ来ても東京は人が多いのう。が、まも…

続・狂二 波濤編50

山陰日々新聞政治部記者 寺島康之は 先程終了した首相官邸での記者会見を聞きながら “裏に何かある” そう確信した。 数日前の地元島根の「竹島」や、長崎県「対馬」での不審船騒ぎに 対応する政府の“生”の反応を取材したく 東京にやってきていたのだ。 が、…

続・狂二 波濤編49

「今にわかる。。。」云いながらキムジョナンがトランシーバ型無線機と携帯電話両方をポケットから取り出す。次に 相棒のリ・スンヨクの背中のリュックに視線を移し、短く 何やら声をかける。リ・スンヨクが リュックから数本の細長い金属性の棒を取り出した…

続・狂二 波濤編48

2008年4月某日 官邸執務室で書類に眼を通していた 福谷首相は 机上の電話器が赤く点滅しているのに ようやく気づいた。(呼び出し音が神経に障り、弱りかけた心臓に影響するとの理由から、特別に無音に設定されていた)「あ、総理大変です、緊急に危機…

続・狂二 波濤編47

横殴りの雨が コージの全身を叩きつける。高さ8メートルもの大波が目の前に襲いくる。だが 視線はしっかりと前方を見据え 両足は和船の底板をしっかり踏んづけ、小船の揺れに身を任せた。櫓を握る手は痺れを通り越し一定のリズムを奏でた。波頭の頂上が崩れ…

続・狂二 波濤編46

マツ島消防団団長の大沢の指示で 携帯基地局の応急修理を何とか終えた島の電器屋 渡辺三郎は 胸ポケットの携帯を取り出した。傍らで 修理の手伝いをしてくれた 大沢の甥っ子 鶴野健太と彼の仲間らが心配そうに覗き込む。フリップを開ける・・・「ヤッター 三…

続・狂二 波濤編45

着込んだ雨合羽が風に揺れた。気が付けば和船を繋いだ浜まで一目散に駆けていた。荒れ狂い始めた波で洗われる浜辺には 勿論人影どころか、一羽の海鳥すら居ない。“よろず屋、彦さん”から サヤカの乗る通学船が不審な二人組みに乗っ取られたのを知ったコウジ…

続・狂二 波濤編44

監禁状況に置かれた家島中学職員室・・・体育教師の立岡正治は3年生の南俊介がしきりに目配せをしているのに気付いた。南は小柄だが、少林寺拳法ニ段の持ち主で島内だけでなく、兵庫県全体でも上位の成績を収める程の腕の持ち主だ。 拳銃を持った不法侵入者…

続・狂二 波濤編43

佐々木淳一は校舎内に再び舞い戻った。消防団の二人に状況を説明する。「元刑事さん、相手が独りの今、チャンスじゃなかろうか」口ひげを蓄えた方が云った。若く見えるがもう40を超えているらしい。「バカ言え、島ちゃん 相手は拳銃持ってるんぞ」なあ、佐…