小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編44

監禁状況に置かれた家島中学職員室・・・
体育教師の立岡正治
3年生の南俊介がしきりに目配せを
しているのに気付いた。
南は小柄だが、少林寺拳法ニ段の持ち主で
島内だけでなく、兵庫県全体でも上位の成績を収める程の腕の持ち主だ。

 拳銃を持った不法侵入者により監禁状況に置かれたままであるが、
“スキ”あらば 反撃の機会を窺っていた立岡にとって、
南の“目配せ”の意味を察した。 

反撃の相棒として頼りになる気がした。
だが、慌てて その思いは打ち消す。
『三人いた不審者、今は一人とは云え、拳銃を持っているのだ。しかも異様なまでの長身男。生徒に危険な真似は
させられない』

相手に気付かれないよう 「ダメだ・・・」
眼で 制した。




が、突然 南は監視の外人に向かって 「あのぅ、トイレに行きたいんやけど」
ズボンの前を手で抑えながら、言った。

「南!」
立岡が思わず怒鳴った。

外人の右手は立岡に銃口を向けながら、南の方を
振り返った。

「ナンダァ オマエ ガマンデキナイノカ」

「あ、ああ・・」
外人は ぐるりと人質らを見渡し 
「ヨシ オマエダ、イッショニ ツイテキテモラウ」

 片隅で震えていた女生徒、森山加奈を指した。

「オカシイマネヲ スルト コノコ イノチ ナイ」

「ま、待て 僕が一緒に行く」
立岡が叫ぶ。
外人は 立岡の眼を覗き込み 
「NO オマエハ ダメ」
 
体格が良い立岡に警戒してか、森山を指名した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ガラ。。。職員室のドアが開く音に 佐々木淳一らは
慌てて 身を伏せた。

その時 「おい 何やってんだぁ」背後で声がした。
振り向くと 雨合羽を小脇に抱えた男が立っていた。

「し、静かに・・・」
消防団 口ひげの島岡が 雨合羽の男(ヒロシ)に注意を促し、
小声で 「拳銃野郎に学校が乗っ取られてる・・」

「何だと・・・」ヒロシが云いながら教室の影から首を出した
丁度その時・・・
南を先頭に 森山加奈の腕を掴んだ長身の外人が職員室から出て来るところだった。

「居たッ あの時の!」ヒロシが叫ぶ
叫び声に 振り向く 三人。

ヒロシと眼が合う外人ローレンス。

ローレンスも直ぐに思い出したのか 
「オ オマエ・・・」
ヒロシに体の向きを変えた。

その一瞬のスキを逃さず 
南は 背後から 銃を握っている右手めがけ渾身の“蹴り”を入れた。

カラカラ。。。音を立て 銃が廊下を走る

さらに 南が蹴り上げかけた時 振り返りざま ローレンスの
左足が半円を描き 南の頭上を舞う。
尻餅を着きながら避ける 南。

騒ぎに気付いた立岡が飛び出した。
森山の足元に転がっている拳銃を見つけ
森山!蹴飛ばせッ

ありったけの声を張り上げる。

わけも分からず突っ立ったままの森山が突然我に返り
無我夢中に蹴飛ばした拳銃は 佐々木の前に転がる。

拾い上げ、「よしッやった」怒鳴る佐々木。

学生時代柔道で鳴らした立岡が 呆然と立っているローレンスの
襟首を掴み 払い腰で投げ飛ばす。

ドーンッ 派手な音を立て 廊下に崩れ落ちる。

倒れたローレンス目がけ、佐々木とヒロシが走り寄る 。

ヒロシが倒れたローレンスの腹を蹴り上げる。

グフッ。。。。

「もう いい・・・」
さらに蹴り上げようとするヒロシを制止しながら 佐々木が

「それより誰かロープだ!」

「これで 良かッぺ? 元刑事さん」

消防団 口ひげの島岡が 半纏のフトコロから常に持ち歩いている
ロープを取り出す。

後ろ向きのまま ローレンスの両手は 縛り上げられた。

成り行きを見ていた職員室全員の歓声が廊下に響いた・・・


 しかし まだホンの序章だったコトを その時点で
 誰も 知る由はなかった・・・のである。





         つづく