小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

2013-04-01から1ヶ月間の記事一覧

狂二4 NINE.sec その17

ヒロシが云うように、キタにしては静かで落ち着いた店だった。 紀ノ国屋書店から歩くことおおよそ10分。地下鉄の駅で云えば梅田より中崎町が近いとのことだった。 店のある下町通りには、格子の板壁に覆われた店や黒壁の家が点在し、どことなく京都の町屋…

狂二4 NINE.sec その16

私鉄の北摂大前駅。駅前広場の一角にそびえ立つモニュメントの鐘が夕刻5時を奏で、列車を待つホームに流れていた。 バスに乗車中のほとんどは、次々と呼び出される携帯に、ずっと応対を余儀なくされていた三好菜緒子だったが、一区切りついたのかようやくフ…

狂二4 NINE.sec その15

「寺島さん、私の理論には、唯一の欠点と云うか弱点があったのです」 視聴覚ルームに三浦教授の声が哀しく響いた。 「まさかそんな」 「初めてお会いした時、20年前にあの論文を発表後、各方面、専門家たちの間から激しく叩かれた事を申し上げましたよね」…

狂二4 NINE.sec その14

走り終えた50メートル走。河本のタイムを訊きに走っていた鈴木マネージャーが戻ってきた。 一回目が6秒17、二回目は5秒21。との事だった。 「一回目は無視するとして、二回目のはレベル的に、どうなのでしょう?」 「えぇ本格的な陸上が初めての全力…