小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

2014-01-01から1年間の記事一覧

ミモザの花が散ったあとに 32

カルベロは、コヤツ一体何者?的な視線を僕に向けていたが川村の紹介に、「オーミスターモリノ。ナイスミーチュー」と手を差し出してきた。どのように返していいものか、どぎまぎしながら 「は、ハロー」と応えた。それだけで一日分の汗をかいた気がした。席…

ミモザの花が散ったあとに 31

「森野君、すまない」中沢の手招きに「はい課長」と勢いよく反応したものの、(やはり来たか)と思った。心と足が重くなった。案の定、中沢は「先ほどから電話してても、らちが行かない。向こうの様子を確かめてきて欲しい」と頼んで来た。やはり・・・「三…

ミモザの花が散ったあとに 30

用を足し廊下に出てみると、タケさんの背中が見えた。近づいてみると手すりにもたれ庭の方を眺めていた。わざわざ待ってくれていたのだろうか。眼が合うと「もうすっかり、あれでんな。お元気そうで何よりですわ」と笑った。「え・・えぇまぁ」昨夜の記憶は…

じっくり、読んでみればなかなかの名著じゃないか

お金は銀行に預けるな 光文社新書 勝間和代著 その昔、拾い読みの段階で 「資本主義というものは 賢くない人から賢い人へ金が流れるしくみ。と思っています」 の箇所を見つけてしまい カチン となってしまった。賢くない人、いわゆる阿呆から賢い人へと、金…

ミモザの花が散ったあとに 29

(まだまぁ若いけん、これからなんぼでん、あろうが)ふいに、あの駅員の言葉が聞こえた。それは聞こえたと云うより頭のてっぺんから、突然鳴り響いたという感じだった。はっ。と目覚めると豆球の小さな灯りが見えた。え。。。ここは?蛍光灯の豆球だけが照…

探してましたんや、こういう本

いやはや、先週末 早退をかまして 行ったったジュンク堂。そこで偶然に見っけ。(こういう出会いがあるからジュンク堂通いは辞められない) 先ず、タイトルの年収100万円が目に!(なにせ、それがしの近未来も。。。)で、この本の良かったところは、単な…

佐藤泰志のどこが?

先週、偶然見た NHK古本屋で働く青年の一日を追ったミニドキュメントだった。 でディレクターがカメラを向け 「佐藤泰志のどこがお好きですか?」その青年は 一瞬考えたものの きっぱりと 「暗いところ」ってなシーンが 忘れられず カメラが捉らえたその…

ミモザの花が散ったあとに 28

洗面所で顔を洗い、暖簾をくぐり出るとタカタが廊下の壁にもたれ佇んでいた。タカタもかなり呑んだ筈なので、たんなる酔いの影響なんだろうけど、すっかりしょげていた。僕に気づくと、ぴょこんとお辞儀をするや駆け寄ってきた。「どうぞ。。。これ。フロン…

ミモザの花が散ったあとに 27

あの日、力になれなくゴメ ン。今更やけど、そしてキ ザな言い方をするけど、こ んごは何でもかんでも、 この私に相談するよう。 5月6日。7時。。。。慣れない日本酒にしたたかに酔っているはずの頭に、突如浮かび上がった前村のメモ。だがそれは映像のよ…

ミモザの花が散ったあとに 26

篠原さん宅のベランダに咲いていた白い花。(カラーと言う名前だったのか・・・。)心の中でもう一度つぶやきながら、図鑑を棚に戻した。別に名前が分かったところで、今さらどうと言うこともない。だがあの花に巡り合わずとも、どこかでその名前を耳にする…

ミモザの花が散ったあとに 25

部屋を出る高田の背中を見送りながらぼんやりとしていたものが、カタチとなって現れたと思った。しかし清水先輩は「これのどこが格好いいねん。。。わからんわ」ぼやきながら「課長もそう思いまっしゃろ」と中沢に同意を求めた。中沢は、いや、とかぶりを振…

ミモザの花が散ったあとに 24

「仕事着というより、米軍の払い下げやな。」清水のひと言に、営業部員たちは「あ、まさしくそれですやん」とか「信じられへん」「こんなん、ファッションとちゃうやん」など口々にぼやき始めた。中沢は?と見ると、手元に戻った写真をにらんだまま、ピクリ…

ミモザの花が散ったあとに 23

船場商事・繊維事業部としては、二例目となるデザイナーブランド(カルベロ・クラロ)だが、注目のブランドらしく他社においても角紅商事を筆頭に2、3の商社やメーカーが名乗りを上げていたという。だが、前回と同様、破格値的な条件を提示し、他社を寄せ…

ミモザの花が散ったあとに 22

前村のメモから、突然に浮かび上がった言葉(あんざんこ)。単なる偶然?いやいや、それはまずないだろう。あらためてメモを見なおしてみると、不自然な改行は、この言葉を伝えたいがためだとよく分かる。。。こころもち左側の文字が大きいのも決定的と言え…

ミモザの花が散ったあとに 21

出勤前の鬱々とした気分。あれは一体何だったと言うのか。あれこれ悩み、悶々としながら日々を暮らしたここ数カ月のことが、急に虚しく思えた。たった一度きりの人生、これからは前だけを見て生きようと思った。もちろん、これからも障害物に突き当たったり…

ミモザの花が散ったあとに 20

まさか中沢課長は階段をかけ登って来たのだろうか。少し息を弾ませている。目が合いそうになるのを避けるように頭を下げ「わざわざすみません。」と詫びた。「え、まあ。はぁはぁ」「長いあいだ勝手しました。本当に申し訳ありません」中沢は前髪をかきあげ…

ミモザの花が散ったあとに 19

前村を見送ったあと、三田村は腕時計を確認した。「そろそろ8時半か、中沢も来てる頃やな」いよいよか、と胸がどきりとした。「けどその前にや、森野」「あはい」「ほんまに大丈夫なんか」「えぇまぁ。。。」「その、まぁのあとの沈黙は何やねん」「あいえ…

ミモザの花が散ったあとに 18

敷居が高い。そのような言葉があったと思う。まさにそれだと思いながら、従業員入り口のドアを開けた。くぐり抜け、少し進むと右から3番目に繊維事業部のタイムカードがある。さらに営業一課を先頭として左側へずらりと続き。。。ふと、自分のカードは無い…

ミモザの花が散ったあとに 17

少し前の自分なら、資料室を兼ねたこの図書室に来なかっただろうなと、ふと思った。それも昼休みに、わざわざ休憩時間を削ってまで。図書ルームは読書好きの女子社員たちで賑わっていた。入ってすぐの壁にジャンルごとの配置図が掲げられてあった。さっそく…

しっかし、まあ

書いた自分が云うのも何やけど、 狂二シリーズ、読み出したら止まらない。 で、昨年の Nine.secシリーズの中で 実は この場面と、赤字の部分が 一等のお気に入り。(もち最初から狙ってなど居らず、書いてる途中勝手にキーボードが叩きだした) 山根監督…

ミモザの花が散ったあとに 16

「お客さん大丈夫ね?」ふいに頭の上で声が聞こえた。見上げると年輩の駅員がチリ取りと、箒を手に立っていた。早朝出勤のとき、決まって出迎えてくれる顔。色黒の。だが、いつも苦虫を噛み潰したような不機嫌まるだしで。。。ベンチでうなだれたままの客に…

ミモザの花が散ったあとに 15

便せんの上に、さきほど引きちぎった封筒の先っちょが滑り落ちた。 え。いつだったか前にもこんなコトが。。。とあれこれ記憶をたぐり寄せる。 あ、長澤。。。あの夜。雅恵からの・・・ もう1年も前、いや、まだ1年・・・というべきか。。。 涙とともに読…

ミモザの花が散ったあとに 14

川の方角を眺めたまま、佇んでる僕に、篠原さんは「時間ある?ちょっと休んでいこか」と護岸を指さした。僕は「えぇ、もちろん」そう云いながら空を見上げた。太陽は厚い雲に覆われているものの、まだ高い位置にある筈。自分の時間について云うならたっぷり…

ミモザの花が散ったあとに 13

初めての沖縄料理だったが、想像したほどの油っこさは無く、とろけるような美味さだけが口一杯に広がった。店の雰囲気が饒舌にさせたのか、僕たちはよくしゃべりよく食べた。しかし突然、(もう帰るんやろ)篠原さんが云った言葉に、自分の迷いを見透かされ…

ミモザの花が散ったあとに 12

(てぃーだぶっく)の看板に、まさか本屋?とガラリと横びらきの戸を開けた瞬間、なんだ食堂。そして、あ、沖縄だと思った。きょろきょろ見回す僕に「ほら、前に云った通りやろ」と篠原さんがわき腹をつついた。「えぇココもそうですが、さっきの商店街全体…

ミモザの花が散ったあとに 11

マンションに戻り、リビングルームの時計を見上げると9時半を回っていた。焼却場の順番にもよるがそろそろ彼女が帰ってくる時間だった。少し焦りながらバスルームに向かった。篠原さんのため、風呂掃除と湯湧かしが、居候の自分にできる唯一の仕事でもあっ…

ミモザの花が散ったあとに 10

「花見なぁ。もう何年もしてないわ」悲しげにつぶやいた篠原さんのひと言が、いつまでも忘れられずにいた。5年前に離婚。何があったのかは訊けなかったが、少なくとも5年のあいだは花見をする余裕などなかったろう。「日当がケタ違いなの」が今の仕事を選…

ミモザの花が散ったあとに 9

もともとあった自然の河に、人工的に手を加え、まっすぐに仕上がってしまった岸壁が”いかにも”と云う感じで無粋だった。 遠くにはコンテナをつり上げる鉄骨の巨大なキリンがズラリと立ち並び、倉庫や船の修理工場が多くあった。けれど、視界を狭めるならば、…

ミモザの花が散ったあとに 8

前回までのあらすじ1981年(昭和56年)3月、恋人との哀しい別れを経験した森野彰。すさんだ日々を送っていた。そんなある日、泉州アパレルの原田社長からの誘いで楽しいひとときを。だが、深酒の結果、ヤクザに売らなくても良い喧嘩を。。。。案の定、ズタ…

ミモザの花が散ったあとに 7

「あほッ 自分で慰めてただけや」「え?慰めるてナニを」彼女はさらに真っ赤な顔になって「あほ」と云いながら テーブルのフキンを投げつけ笑った。投げつけられたフキンは、首に当たったあと、膝に落ちた。湿ったそれを拾い上げながら「そんなあ。いったい…