小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

ミモザの咲く頃に その43

どんなことがあっても、定時で仕事を終え会社をあとにせねばならない木曜日。その時間が迫っていた。一応時計は目に入ってはいた。が、もう少しのところで仕上がる書類にペンを走らせていた。すると 「森ちゃん、そろそろ時間ちゃうか」 思いがけず横山先輩…

ミモザの咲く頃に その42

その年の7、8月ほど、長く感じられた年はなかった。 壁にぶら下げられたカレンダー。7、8月のページ上半分の写真はどこか外国のリゾート地なのだろう、真っ白な砂浜。真っ青な空と海が広がっていた。だがその下半分、ほとんどは黒インクの数字で埋め尽く…

ミモザの咲く頃に その41

「らっしゃい」ゃい」 戸を開けた瞬間に飛びこんできた二人の声は重なっていた。小柄だが、浅黒く精悍な顔つきの主人と眼があった。 「ようお越し、せんだってはおおきに」「いえ、こちらこそ」思わず頭を下げた。 たらふく飲んで食べたにもかかわらず、二人…

ミモザの咲く頃に その40

早朝の会社の廊下は薄暗く、どこかひんやりとした空気が流れていた。 だがそれは外の気温の高さによる錯覚なのだろう。その証拠に雨でやや肌寒い朝など、建物に入ったとたんむっとする熱気が襲ったりする。ぎらぎらと太陽の照りつけた今朝の場合、建物の中は…