小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

2012-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ミモザの咲く頃に その21

大阪駅を出発した高槻行きの普通列車が淀川の鉄橋を渡り始めた。ゴト、ガタ、ゴト・・・独特の音が車内に鳴り響く。朝日を受けた川面はキラキラとまぶしい。三日前に見た水鳥たちの姿はなかった。僕は時計に視線を落とした。6時40分。前村加奈子の顔が浮…

ミモザの咲く頃に その20

6月25日水曜。ジャンニビアンコとの契約交渉を翌日に控え、川村の呼びかけでプロジェクトチームの最終会議が行われた。 会議と言っても、契約交渉の席に参加しない国光を始め、他のメンバー達を安心させるため、交渉のシミュレーションや申し送り事項の確…

一升瓶には一升しか入らない

尊敬を寄せる 美輪明宏氏の「ああ正負の法則」に書かれていた名言である。欲張り者は 自分の器を知らずに どんどん詰めたがるが、当然のように 溢れ出す。じゃあ 一杯きっちりと一升を詰めりゃいいかと言えば 少し動いただけで溢れ出す。 最初から八分目 い…

ミモザの咲く頃に その19

万雷の拍手に、前村はぺこりと頭を下げ、上着を脱いだ。 三宅が労をねぎらいながら受け取り、説明を始めた。 「普通、紳士モノスーツでは男性のモデルが常識です。が、女性が着こなしてはいけないなんて規則はどこにもありません。プロモーション計画の第一…

ミモザの咲く頃に その18

次の日、天気予報は雨だったが、空は晴れ渡っていた。僕はいつもより、早く目覚めていた。久しぶりに歩きまわったおかげか、前夜はぐっすり眠れた事も要因のひとつだろう。が、何といっても“プロモーション会議の大事な日”と云うことが大きかった。初めての…