小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

2008-01-01から1年間の記事一覧

続・狂二 波濤編31

「えっ 家島・・・」高城から 家島について聞かれた 田嶋社長は あきらかに動揺の表情を見せた。「高城君 その話、今で無ければダメなのか」「築港冷凍のあの青年 家島に居るのですわ」役員会議を終え 社長室に二人して戻った時、高城の方から切り出した。情…

続・狂二 波濤編30

ぽつりと来た雨粒は大粒だった。 風が波をうねらせ 見上げた雲は 真っ黒だった。 ゴンこと、コウジ(狂二)は それでも和船の“櫓こぎ”の鍛錬を続けた。 波間での修練が 意味の無い様で とてつもなく意味のある事の ように思えた。 2時間も和船を操っている…

続・狂二 波濤編29

サヤカが家島に初めて来たのは まだ小学5年だったそれから 月日が流れ4月から とうとう中学3年生になった。だが生徒として校舎の門をくぐり抜けたのは、中学一年の5月以降 久しぶりの事だった。 いわゆる登校拒否生徒ではあったが、その原因は学校側には…

続・狂二 波濤編28

田嶋総業役員会議室では 前日に行なわれた大阪府議会議員選挙。立候補し、見事に初当選した田嶋社長の祝勝会が行なわれていた。一通りの仕事をこなし、ようやく一息ついた高城常務は内ポケットの携帯を取り出し、着信暦を確認する。胸の携帯が震えていたのは…

続・狂二 波濤編27

家島諸島の内、最も大きい島「マツ島」そのマツ島にある マツ島神社神主の 三好守信(みよしもりのぶ)は朝から立て続けに来客を受けた。それも 2008年 “ダダダ下り祭”の あの青年に関する問い合わせだった。『ほう・・偶然とは言え、めずらしい事もあるもの…

続・狂二 波濤編26

軽い爆発音と共に、黒煙を発見した情報屋の佐々木淳一は 息咳切らし転がる様に坂道を駆け降りた。駆け降りながら あの男の手掛かりになる“ダダダ下り祭”での事や、 わざわざ神社への道案内をしてくれた年配の巡査の顔を思い浮かべる。「ワシ、来月の誕生日が…

続・狂二 波濤編25

山頂にある神社社務所を出た 佐々木淳一は携帯を取り出した。ディスプレイの時刻を見やり、役員会議中か・・・一瞬躊躇しながらも相手 田嶋総業 高城常務の番号をプッシュした。 高城常務から依頼されていた あの男の消息を探していてついに 今の居場所を突…

続・狂二 波濤編24

幸いにも、飾磨港フェリー乗り場は閑散としていた。長身のローレンスには紺色のビジネススーツに着替えさせ、目立つのを少しでも低減させた。が、平日の午前10時と言う中途半端な時間帯か、フェリーに乗り込む客は まばらで、皆他人には無関心だった。『こ…

続・狂二 波濤編23

雲が走っていた。播磨灘を左右に貫く西風が強くなっていた。本日の釣果はチヌが3匹ほど。サメはここ数日姿すら見せない。「ゴン、今日のところは 上がりや 引き上げるぞ」「え? えらい早いすね」雲の間の太陽を見上げ あんなに高い位置にありますやん 赤銅…

続・狂二 波濤編22

民自党 麻田幹事長からの電話は いよいよ明日に迫った大阪府議会議員選挙への激励だった。とりとめの無い話を終えたのち、タイミングを計り思い切って切り出してみた。「ところで 幹事長 先日申し上げていた 昨年末のテロを未然に塞いだと言う うちの従業員…

続・狂二 波濤編21

大阪府議会選挙投票日を翌日に控えた 『田嶋候補』選挙対策本部は最後の追い込み確認作業に忙殺されていた。 政権与党“民自党”のゴタゴタのあおりを受け、思わぬ苦戦を強いられて来たが、地元の組織票を重視し、民自党には元々頼らない関西特有の選挙活動が…

続・狂二 波濤編20

「えーと、天井の高さ230からマイナスの34センチで・・・。ひゃあー 196センチもあるやん」壁際に“ゴン”を立たせ そこからゴンの頭の先に直角定規をあて、印を付けた先を逆算していた サヤカが素っ頓狂な声を上げた。そろりと椅子から降りながら「ウ…

続・狂二 波濤編19

「ははッ 見つけたぞぅ・・・」店の入り口で いきなり響いた声に 一斉に振り返る3人組。慶一の胸倉をつかんでいた リーダー格の男が 「チッ サッキのヤツ・・・」 長身のアラブ系男に英語で 「ローレンスお前に任せる」目配せをした。「Yes」眼を輝かせ …

続・狂二 波濤編18

「ありがとうございました」最後の客を見送ったあと、携帯ショップ “ゼロベース”若き店長 今野慶一は 掛け時計の 20:20を確認し店じまいの準備に取り掛かった。シャッターに手を掛けると 人影が見えた。「あのーぅ 本日の業務は終了したんですが・・・…

続・狂二 波濤編17

田嶋総業 役員会議室定例役員会議を終えた 常務取締役 高城はいつもの習性でスーツの内ポケットから携帯を取り出した。社長始め 他の役員は ゾロゾロ部屋を後にした。マナーモードを解除し、着信履歴をチェック。大阪府議会議員選挙もいよいよ近づき、民自党…

続・狂二 波濤編16

姫路市内でも午後8時を過ぎると表通りはまだしも、一本筋が離れた裏通りではばったり通行人の数が減る。四月の中旬と言うのに、寒の戻り やけに冷え込む夜だった。市内に組を構える 竹川組のヒロシは一緒に集金を終えたケンジに向かって、「ちょっくら立ち…

続・狂二 波濤編15

中国大陸本土。南海岸に突き出た半島 マカオ。カジノと観光の町。そこの裏通り ハンバーグレストランの3階の狭い部屋でキムジョナンは 世界的に有名な ネットの動画投稿サイトユーブロードキャスト(YouBrodcast)を特にあてもなく観ていた。パ…

続・狂二 波濤編14

岩だらけの坂道の両側を びっしり取り囲んだ見物客達がどよめき、やがて悲鳴の様な歓声が沸き起こった。 “ダダダ下り祭”が始まって2時間 神主を先頭に 続く氏子組の世話人集団の先導よろしく 1トン神輿を担ぐ若者達がようやく サヤカらの目の前に降りて来…

続・狂二 波濤編13

早朝にもかかわらず 家島諸島マツ島のフェリー埠頭は50年に一度の奇祭を見物しようとする観光客たちであふれかえっていた。 「結構メジャーな祭なんやね」サヤカは一抹の不安を覚え、周囲を見渡し、テレビカメラとかの、マスコミ取材が来ていないかどうか…

続・狂二 波濤編12

明後日行なわれる “ダダダ下り祭”に備え ゴンは秀じぃ操る船で隣の島に渡った。約2週間の特訓を無事終えた、1トンの神輿を担ぐ選ばれし男達には、祭前の最後の儀式 神主たちとの滝行が残っていた。行と言うより 神聖な神輿に触れる前の けがれを洗い流す儀…

続・狂二 波濤編11

その朝 ベランダの鉢植えに水をやっていた古庄多美恵はリビングの電話機の呼び出し音に気付き慌てて部屋に戻った。 が、同時に呼び出し音が 止んだ。気になって 着信メモリーの検索ボタンを押してみる。だが時刻のみ着信記録は残っているのに肝心の相手の番…

続・狂二 波濤編10

じゃぁ、最後 末尾9を掛けてみるね」サヤカが操作する携帯を 固唾を呑んで見つめるゴンが小さくうなずく。。『・・・・・・・・プッ・ルールルル・・・・』呼び出し音が鳴った。が、相手は留守なのか出なかった。が、大きい収穫だった。例の “よろず屋、彦…

続・狂二 波濤編 9

「ちょっ、いらん事言うから、怒らせたやん」ゴンのわき腹を突きながら、口をとがらせる。 が、すぐさま相手の人数を数え、“ナリ”とか観察する余裕があった。『5・6・・8人かぁ。ケド、ガラは悪いがドコとなく都会的なひ弱さを漂わせている・・・あれ? …

続・狂二 波濤編 8

日が明けた。丁度お彼岸の入りだった。「秀じぃ、あとで“ゴン”と一緒にお墓参りに入ってくるわ、で帰りに “よろず屋、彦さん”の店に寄っても良い?」サヤカが朝食の後片付けをしながら言った。今日は漁も休みで 久しぶりに全員揃った食卓だった。記憶喪失の“…

続・狂二 波濤編 7

電話を切り、あれこれ考え込むうちに 簡単じゃないのに気がついた。0から順番に掛けるのはいいが、先方が出た時、なんて切り出せば良いものか。。。〈あのーう、少々お尋ねしますが、記憶喪失の人を保護してますが、心当たりありません?〉など 切り出すの…

続・狂二 波濤編 6

三月も半ばを過ぎると家島の海に穏やかな陽光が、 降り注いでいた。 朝晩は冷え込むものの 昼間の海水温は暖かだった。 時おり跳ね上がる波しぶきでも、ほてった頬に心地よい。 遠くに見える四国の山あいの稜線が 青く煙っている。 空は夏の空の様に どこま…

続・狂二 波濤編 5

「さすが、高級車は乗り心地が違うのぉ、サヤカ」 秀治が大きくのけぞりながら足を組みかえる。その度、履いている長靴がボコボコ音をたてる。 「う、うん・・・」 黒塗りのベンツ、後席の真ん中で 小さくなりながらサヤカが頷く。 「しかしまあ、親分さん …

続・狂二 波濤編 4

まず最初にジャージ姿の男が 軽トラ、運転席の横に立った。 金のブレスレッド、同じく金のネックレスをぶら下げ、ジャラジャラ鳴らせた。 「おう、じいさんこのボロトラック邪魔なんや、なんとかしたれ」 「それがニイチャン、動きまへんねん、ガス欠だ」 顔…

続・狂二 波濤編 3

船首が白波を切り裂いて、進む。 やがて姫路の港が近づいて来た。ここまで来ると、 都会の雑多な、ぬくもりのある風が 不快に、 襲ってくる。 キャビンで舵を操作する秀治までは届かないが、 先頭で、仁王立ちで誘導する サヤカにとって、 この雑多な熱気が…

続・狂二 波濤編 2

カモメが二、三羽 頭上を旋回した。 北風がいつの間にやら西風に変わっていた。 錨を巻き上げ ポイントを移動する。 播磨灘 家島諸島の漁師 秀治は魚群探知機とかの文明の利器を備えず、 己の経験と勘だけで生きてきた。 もっとも“サメ狩り”専門の秀治には魚…