小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編12

明後日行なわれる “ダダダ下り祭”に備え ゴンは秀じぃ操る船で隣の島に渡った。

約2週間の特訓を無事終えた、1トンの神輿を担ぐ選ばれし男達には、
祭前の最後の儀式 神主たちとの滝行が残っていた。

行と言うより 神聖な神輿に触れる前の けがれを洗い流す儀式の様なものらしい。

また 二晩寝食を共に過ごす事により男たちの結束を図る意味合いも含まれている。



「とうとう来たね。じゃあ当日応援に駆けつけるから・・」

サヤカに見送られ軽く頷いたゴンは接岸された隣島の船着場に飛び降りた。

「じゃ」
秀じぃが 軽く手を挙げ すぐさま船を後進させる。

ポンポポポ・・・・グルルル・・・
エンジン音が大きく唸りを上げ波しぶきを立て 旋回。
ゴンの姿と降りたった島影が見る見る小さくなり 
遠ざかる。

「大丈夫じゃろか」
「ああ、あの男なら大丈夫じゃて・・」
サヤカと秀じぃの会話がウミネコにかき消された。

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結局あの夜 隣島の長老に頼みこまれた “ダダダ下り祭”に
参加させる事になったのである。

「ダダダ下りか 懐かしいのう・・・」
「えッ 秀じぃ知ってるの」
「知ってるも何も この秀も50年前 神輿を担ぎ ワシと一緒に降りた仲じゃて」
長老が白くなったアゴ髭を撫でながら言った。
「えーーー凄いやん」

何百年も昔 飢饉が続き 周囲の山も畑も田も荒れ、頼みの海も
なぜか不漁続きの年が続いた。
そんな時 流れ着いた年老いた旅人が居た。
山頂の神社を指差し「あそこのご神体を この海の潮で洗い清めてあげなさい」
と告げた。
それを聞いた島人たちは 「ご老人 それは無茶です あの坂を担ぎ降りるなんて」と一斉に反発した。
「この島にも力自慢の勇気ある者は居るじゃろうが、その者たちが島の将来を救ってくれるじゃろ・・」

結局 8人が選ばれ 神輿を担ぎ急坂を下りた。

やがて お告げ通り 飢饉は去り 畑や田の作物も稔り、豊漁も続いたと言う。
数百年前 4月の最初の丙子(ひのえね)の日だった。

その後 50年に一回、島の伝統行事として 選ばれし男たちにより 引き継いで来られたのだ。

秀じぃも若干15歳で担ぎ下りたと言う・・・

「ひとつ良いかな。。」
秀じぃがおもむろに口を開く。
「テレビや新聞関係も取材に来るのか」
「と 言いますと?」
今まで黙っていた よろず屋 彦三郎が秀じぃの顔を見つめる。
「いや、あの男 事情があってテレビとか新聞に披露となると。。。あ、いや 別に怪しい事情ではないがの」

「それは 全然心配は要りませんて、姫路の新聞社は一応来ますが あくまでも地方の伝統行事の取材ゆえ おそらく小さく載るだけですよって」

彦三郎も準備委員として 今回の広報役を引き受けているらしい。

「テレビ局の取材なんて コッチが頼んだとしても小さな島の行事 来ませんて」

その一言が決めてとなり 翌日ゴンの意向を確かめたのである。

「ふ~ん、面白そうやな それ」
頭を掻きながら 事も無げにつぶやいたのだった。

        つづく