小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編13

早朝にもかかわらず 家島諸島マツ島のフェリー埠頭は
50年に一度の奇祭を見物しようとする観光客たちであふれかえっていた。

 「結構メジャーな祭なんやね」
サヤカは一抹の不安を覚え、周囲を見渡し、テレビカメラとかの、マスコミ取材が来ていないかどうか確認した。
今の所 大丈夫のようだ。
 
「じゃ、昼過ぎ迎えに来るけぇ、あやつなら大丈夫 その頃無事に終わってるじゃろて」
 
「今日ぐらい漁、休まれへんの」

「あぁ 姫路のお得意さんから たっての注文が来ての」
秀じぃが言い残して 船をUターンさせ、遠ざかる。

姫路と言えば・・・





 観光客で賑わう人ごみを掻き分け、フェリー乗り場の待合室に入った。
 柱の大時計を見あげ、

「まだ7時過ぎかぁ・・・ひろ子らは次の便かな」

そう言いながら ショルダーバッグから例の携帯を取り出す。
おもむろに 06で始まるあの番号をプッシュする。
何となく 今日は繋がる予感がしたのだ。

が、コールはするものの、虚しく6回を数え 7回目を数えるその時だった。 

「オヒサ! 正月以来やね」軽く肩を叩かれた。
振り返ると 姫路時代の親友 ひろ子が笑っていた。
携帯ショップの若き店長もその横で はにかんでいる。

「おッ オヒサーー!」
コールしていた携帯を閉じ、
「その節はお世話になり・・」
店長に向かって ペコリと頭を下げた。

「未だ連絡取られへんの?」
「う、うん・・」

「しかしまあ、今年4月 最初の丙子の日が日曜で良かったわ」
ひろ子がのん気な声を上げる。
「50年に一度の祭 一緒に見れるなんてなぁ」
「なにより その携帯の子が 島の代表で お神輿担ぐとはね・・・これも何かのご縁やね」

正月以来 見るひろ子は すっかり大人びていた。
が、この春で 未だ中学3年になったばかりだ。

「サヤカ、ガッコは?受験はどうするん?」

「あー またその話・・・別に、ええやん」

「姫路に帰るんやったら いつでも応援するから」

「うん ありがとう。でもココの島 気に入ってるねん」

待合室の他の乗客たちが ザワザワと席を立ち出した。
まもなく 神事が始まる時刻が近づいていた。

ダダダ下りが行なわれる 坂道はフェリー乗り場から数百メートル、歩いて10分ほど東側の坂道だ。

「そろそろ、うちらも。。」

神輿が降りて来る 中腹に場所を確保する事にした。
携帯ショップの店長が 坂道を何度も見上げ

「しかしまあ、信じられヘンわ 人間ひとり歩いて降りるだけでも大変そうなのに。。。」

確かに 普通の山道ではなかった。
人の背丈ほどの 岩を幾つも乗り越えねばならない。

「本当に大丈夫じゃろか。。。」
サヤカも岩だらけの坂道を見上げ ため息ひとつついた。

坂道の向こう 
青空がその不安を払拭するかの様に 
何処までも広がっていた。
 この上ない晴天が続き まるで島民たちを祝福するかのようだった。


  が 後日 とんでも無い出来事の引き金になるとはサヤカらにとり、知る由もなかった。


         つづく