小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

新連載「そして、池上線」

そして、池上線86 (最終回 後編)

「じつは彼女もその店で待ち合わせてあるんです」 胸がどきりと鳴った。 「画廊よりも、じっくりお話が出来るやろ。そう思いまして」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「えークルマて、あれかいな」 西崎が素っ頓狂な…

そして、池上線85 (最終回・前編)

じゃあ、そろそろ降りる支度を。と先ほどから何やらスマホに打ち込んでいた上田かずみ氏をみれば、まだスマホの画面と格闘中だった。ちらりと見ると文字でびっしり埋め尽くされてある。 「あのぅそろそろ」と起ち上がると 「あはい。」と笑顔を向け、慌てて…

そして、池上線84

9時ちょうど東京駅発、のぞみ213号新大阪行きは、さすがに土曜日と言うこともあり行楽客たちで賑わっていた。ひとり紺色スーツとビジネスバッグで完全に浮いていた。 久しぶりの出張。。。(家族には初恋相手との再会が目的の旅行なんて言える筈もなく、…

そして、池上線83

「何もわかって無いんですね部長・・・」 「は?」 しばらく三好菜穂子は下を向き黙って居たが、ぱッと近づくや私の胸に飛び込んできた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ え。。。。 ふんわりとした香りが鼻腔をくす…

そして、池上線82

今から打ち上げ行くけど、碧も来る?・・・あ、そう。。じゃあウチらだけで行くわ」 西崎の携帯を聞きながら思わず三好と顔を見合わせた。 このあと、戸越銀座、BARあほう鳥へ行く約束をしていたのだった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…

そして、池上線81

五反田行きの池上線を待つホームのベンチに座ると同時に三好菜穂子の言葉が蘇った。 「どうしようもない恋なんです」 「え?誰が」と覗き込んだ。 だが三好は両手で顔を覆い、下を向いたまま静かにかぶりを振り続けた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・…

そして、池上線80

店を出ると、さすがに中原街道は車の往来も賑やかだったが、反対側の商店街は人通りもまばらだった。えッと慌てて時計を確認したが、やはりまだ午後の10時を廻ったところだった。キョロキョロと辺りを伺っていると三好菜穂子がクスッと笑った。 「部長、ど…

そして、池上線79

戸越銀座。。。むかし西崎担当の編集者時代、よく連れられ行った馴染みのバーを思い出した。「三好くん、良ければ飲み直さないか」一瞬断られるかも。そう思ったが「え、良いんですか」と目を丸く輝かせた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…

そして、池上線78

あ、三好ちゃん。あさって来れる?。。。。そう、例の件佐伯社長が、ぜひにって。。。。。え、夕方ならOK?。。。ちょっと待って」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 。。。。。。。とまあ、以上が佐伯社長の変更案…

そして、池上線77

「あくまでも例えばの話やけど、作家事務所の新人と僕が只ならぬ関係に発展。ってぇのは?」 「あ。あーもしかして、それ、碧と佐伯社長のコト?」 それまで、めずらしく静かだった西崎だったが、 絶叫に近い声が部屋中に響き渡ったのだった。 ・・・・・・…

そして、池上線76

そして、5月の京都行きを前にして、3日間の約束で、西崎邸通いが始まったのだった。 そして、 その三日間の約束が1週間になり、10日になり、 まさかのことが、起きようとは、知る由もないことだった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…

そして、池上線75

「それよりさぁ、来月行くんでしょ新作展」 「もう待ちきれないって。貴方との再会、すんごく楽しみにしてられたわ」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 寝返りを打つたびに、西崎とも代の言葉が浮かび上がった。いや正確に…

そして、池上線74

「マブっちゃん、あんたが惚れるの無理ないね、実に魅力的な女性だわさ」 なに事も無さげに言った西崎の声が、がらんとした事務所に響き渡った。 な、なぜそれを。。。。ぐふっとむせ返るような息遣いが横で鳴った。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…

そして、池上線73

ふと気付き時計を確認すれば、約束の10分前だった。 あ! なんとまぁ。肝心の馬渕がのんびりと構えているものだから、うっかりするところだった。「そろそろ、時間では?西崎先生ち」 だが馬渕は森島に「先生の帰りまだかな?連絡は?」のんびりとした口調…

そして、池上線72

「ですから・・・この通り、お願いいたします。佐伯さまが、あの子の父親代わりに。。。自分勝手なお願いごと、重々知っております。こんな事お願い出来るのは佐伯さましか考えられないんです、この通り。。。」 ガツンと頭をぶん殴られるような気がした。 …

そして、池上線71

雪が谷大塚の改札を通り抜けると同時に時計を確認すると18時40分だった。西崎宅へ訪問まえ、馬渕事務所での待ち合わせ。その約束の19時ちょうどには少し早い気もしたが、そのまま足を向けた。 雑居ビルを見上げながら、(今夜が最後・・・)そう思うと何やら…

そして、池上線70

馬渕が西崎とも代とのアポがようやく取れたのはあさっての日曜。しかも午後8時という最悪の時間帯。普通ならば絶対に組み入れない予定だった。 けれど、ぜひご一緒にと懇願する馬渕の頼みとあれば。。。いや、やはり・・・。それより何より、西崎のひと言で…

そして、池上線69

「じつはこちら佐伯社長さまのご依頼で、とある方が昔、住んでられた居場所を確認しておりました」「え、この私の」 「いえ、高野・・・いえ吉岡紫織さまです」 「は、はい!?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・…

そして、池上線68

会社に近づくにつれ、印刷機の音が大きく鳴り響いて来た。 本日も松浦はフル稼働中。よくぞアポが取れたものだ。労(ねぎら)いをと、馬渕に振り向いた時だった。 え!? 馬渕はピタっと歩みをとめ、しばしのあいだ眼を閉じ、佇んでいた。まるで記憶の向こう…

そして、池上線67

しばしの間、黙ってハガキを見つめていた。すると「佐伯さん一緒に行きませんか、京都」かけて来た馬渕の声に、どきりと胸がなった。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 京都。。。。 最後に訪れたのは、いつだったろう。独立後はとう…

そして、池上線66

「え。憧れの池上線?て、あの池上線」て訊くと 馬渕は静かに 「えぇ、あの池上線です」と答えた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 5月のゴールデンウイークを前にして、日々の業務は多忙を極めた。 受注、発…

そして、池上線65

「馬渕さん」 「は、はい」 「約束して頂けますか」 「って何を」 「彼女・・・・吉岡さん。今度こそ幸せにして頂けますか?」 「はい?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 私の問いかけに対し、馬渕は顔を逸ら…

そして、池上線64

ファドのBGMも悪くねぇな。そんなことを考えていた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ [caption id="attachment_992" align="alignnone" width="365"] PHOT0015.JPG[/caption] 突然馬渕は、なにやら聞き覚え…

そして、池上線63

馬渕はマスターに、何時もの奴。と告げた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「っらっしゃい。毎度」 店内も程よい照明。重厚な調度品。落ち着いた雰囲気が嬉しい。 カウンター席、マスターの目の前、ちょう…

そして、池上線62

新宿で乗り換えた JR総武線・三鷹行は、週初め月曜の夜と言うこともあって車内はがら空きだった。 「ここまで来たら、ようやく我が家。って感覚です」 隣の馬渕に告げるともなく、つぶやき目を閉じた。 すると 「同感です。いつもこれに?」 「えぇ、ただ…

そして、池上線61

「まっ。とりあえず、3人で祝杯しません?」 嬉しそうに馬渕が言った。 (あっ 約束違うだろ) ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 馬渕が行きつけの居酒屋「雪郷」は、西崎らの行きつけ店の真裏の場所にあった。 中原街道より、一…

そして、池上線60

森島碧。。。。 明日は来るのだろうか。そんなことを考えていた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「。。。。。。。。。。とまあ、以上が高野しおりこと、吉岡紫織さまに関する調査報告でございます。」 馬渕の報告が終…

そして、池上線59

「馬渕さん」 「何でしょう佐伯さま」 で、肝心の吉岡さん。彼女の気持ちはどうなんです? この言葉を投げるべきかどうか、逡巡し続けたのだった。 店内のBGM 枯葉がやたらと心に響いていた。 たしか今は4月の筈なのに。そんなことを考えていた。 ・・・・…

そして、池上線58

馬渕はテーブルに両手をつき、深々と頭を下げた。 「す、すみません」 「え?」 「許してください」 「はぃ?って何を・・・・」 「私、馬渕憲一。吉岡さんに恋しちゃいました」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ まったくの想…

そして、池上線57

「おとん、携帯震えてるじゃん」 リビングに入ってきた勇一の声で、はッと目覚める。 ん?あぁ。 ソファーに寝っ転がりテレビを観ているうち、すっかりうたた寝をしていたようだ。 周囲はすっかり日も暮れ薄暗い。昼過ぎからの雨音は断続的に聞こえていた。 …