店を出ると、さすがに中原街道は車の往来も賑やかだったが、反対側の商店街は人通りもまばらだった。えッと慌てて時計を確認したが、やはりまだ午後の10時を廻ったところだった。キョロキョロと辺りを伺っていると三好菜穂子がクスッと笑った。
「部長、どうかしまして?」
「あ、いや、ここらの夜、随分と早いんだなぁって」
「え、そうですか。あ、言われて見ると飲食店以外、ほとんどの店8時すぎにはシャッターが」
「ほらね」
通りの向こう、商店街に目を凝らすと、ところどころ灯りは点いていたものの、すっかりひと気も無さそうだった。
「君んち、商店街のまだ向こう、外れだっけ?」
「えぇまぁ」
三好菜穂子の表情には、どこか心細さが漂った気がした。
「家のそばまで送らせてもらう」
「えー、そんなあ、大丈夫です、慣れっこですから、途中コンビニとかもあるし」
「いや、でも」・・・・・・
そんなやりとりを繰り返しているうち、踏切を渡り駅の改札も、結局は通りすぎた。
「じゃあ、お願いします」と三好はピョコンと頭を下げた。
その仕草に、ぐっと来るものがあって、気づくと三好菜穂子はいつものスニーカーではなく、先の細い靴を履いていた。何となく雰囲気が違うのはこれだったかと気づき「スニーカーは卒業したのか」とからかった。
「えぇまぁ。。。寺島さんにも同じこと訊かれました」恥ずかしそうに言った。
なるほど、寺島氏。。。。
「で、大阪の話に戻るけど、負担じゃないのか?」
三好は、ピタっと立ち停まるや、「そんなこと無いです、絶対に誓って。。。。でも・・・最近。。。」
言うや下を向いた。
「ん、最近?」
「あ、いえ、そのぅ何でもありません。。。あ、部長、お詣りしません?」
三好は言うや、路地へと腕を引っ張った。
えッと見ると赤い鳥居と、稲荷社と染め抜いた幟旗が見えた。おもちゃの様な、こじんまりとした稲荷社だった。
三好は一礼し、パンパンと拍手すると、長いあいだ頭を下げていた。
※
「今夜はすみませんでした」「いやいや遠慮には及ばない、じゃあまた明日」と、三好と別れたあと、ふたり肩を並べ、ぶらぶらと歩いた余韻にふけっていると、地下鉄浅草線の戸越駅が見えた。高円寺の自宅には断然便利だ。
だが迷ったものの、通りすぎ池上線の駅へと足を向けた。
寺島に?。。。。
まさかそんな。。。
五反田行きの池上線を待つホームのベンチに座ると同時に三好菜穂子の言葉が蘇った。
「どうしようもない恋なんです」
「え?誰が」と聞き直した。
だが三好は両手で顔を覆い、下を向いたまま静かにかぶりを振り続けたのだった。
つづく
今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。