「ですから・・・この通り、お願いいたします。佐伯さまが、あの子の父親代わりに。。。自分勝手なお願いごと、重々知っております。こんな事お願い出来るのは佐伯さましか考えられないんです、この通り。。。」
ガツンと頭をぶん殴られるような気がした。
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思わず、ハッと馬渕の表情を覗き見る。
森島碧に対して抱いていた恋心を、馬渕は見抜いていたと言うのか。けれど平身低頭、ただひたすら頭を下げ続ける馬渕からは、心底から森島を思う気遣い以外は感じられない。
「ま、まぁ馬渕さん、頭をあげてください。承知です、承知しました」
「え。では」
「えぇまぁ。。こ、こんな僕でよければな話・・・・
馬渕は途中でさえぎり、両手で握手を求めて来「うわーありがとうございます」とクシャクシャの笑顔を爆発させた。眼にはうっすら泪さえ浮かべている。そんなにも嬉しいことだと言うのか馬渕にとっては。
「ま、待ってください」
事務所奥から珈琲の薫りが漂ってきた。殺風景だった場も薫りひとつで、少し贅沢な気分になれる。
「はい？」
「あくまでも資格があればの話なんです」
「と仰いますと？」
「この僕に資格など。。。。あるわけない」
やはり打ち明けるべきか。洗いざらい、何もかも。。。すけべなオヤジごころ。
しばらく俯いて考え込み沈黙が続いた。
「佐伯さん」
ん？馬渕の声が変わっていた。声だけでなく表情も何やら一変していた。それまでの柔（にこやか）さは消え、冷徹な眼がそこにあった。まるで容疑者に対峙する刑事のような。
「佐伯さんが仰いたいこと、わかってます」
「え」
「そりゃあ見ていたら分かりますよ、あの子を観るあなたの眼（まなざし）」
ひとつふたつ、冷や汗が背中を流れていく。
「！！。。。。。。。。」
早くこの場を去らねば。。。。久しぶりに胃に激痛が走った。と言うより全身を締め付けられる思いだった。すっかり忘れていたが、馬渕憲一は元警視庁の敏腕刑事。
「す、すみません」
こちらが頭を下げる番だった。ただひたすらに頭を下げ続けた。
「あ。違う、違う佐伯さん」
「はい？」
「決して責めてなど居ません、さ、頭をお上げください。さぁっ」
恐る恐る頭をあげながら、馬渕を見ると、愛川欽也の眼に戻っていた。
「え、でも」
「一応、この僕も男。男の気持ちなど、そりゃあ痛いほどわかるもんです。分かった上で、お願いしてるのです」
「は、はい。。。」
「佐伯さんがあの子に抱く気持ちをですね、ここはひとつ父親としての眼に置き換えていただけませんか。どうかこのとおり。。。」
「え、えぇ。。。」
「置きかえると、それまで見えなかったものでも、いやという程見えるものなんです」
「・・・・・・・・」
「前にお話しましたけど、あの子相当な昔を抱えてるんです。ですからこの通り、父親としての温かい目で。。。」
パタパタ、スリッパの音と同時に「どうもお待たせしました」
森島が珈琲を運んで来た。
「えッ お二人とも何深刻な顔してますのん、キャハっ」
カラと乾いた笑い声に誘われ見上げると、
たしかに娘としての姿がそこにあった。
「馬渕さん、了解です。すべて承知致しました」
馬渕はますます、愛川欽也の笑顔を向け
「え、では」
「えぇ、今ようやく気付かされました」
「ありがとう。どうかお願いします」と強く握手を求めた。
「私なりに、精一杯やらせていただきます」と握り返すと
「え。なんかキモー」
なにも知らない森島は、珈琲を置くや
「奥、片付けてきまーす」
明るい声を弾ませた。
つづく
今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。
