小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

そして、池上線84

9時ちょうど東京駅発、のぞみ213号新大阪行きは、さすがに土曜日と言うこともあり行楽客たちで賑わっていた。ひとり紺色スーツとビジネスバッグで完全に浮いていた。

久しぶりの出張。。。(家族には初恋相手との再会が目的の旅行なんて言える筈もなく、出版関係の打ち合わせと言う名目で出てきたのだった)

品川駅から乗り込んでくる西崎とも代から、きっとスーツ姿をからかいの対象にされるだろうが、まぁ仕方ない。。。

ほどなくして、品川駅に到着。。。ホームに目を凝らし西崎を探す。。。

え?

ホームには西崎ではなく、西崎の一番弟子、上田かずみがバッグをさげ車内を覗き込んでいた。目が合い、私を確認するやニッコリ笑いながら手を振った。

何とまぁ。。。

上田かずみ37歳・・・数年前に文壇デビューを果たし、今や西崎をも凌ぐほどの売れっ子作家。今回のストーリ、私と上田との進行形恋物語として勝手に借用したその上田嬢。。。まさかそれに関係してのこと?

通路側が希望の西崎のため、空けていたが仕方ない。窓側が好みだろう。。と席を変わるため起ち上がる。

すると案の定、

「どうも」と明るく乗り込んで来、バッグを網棚に乗せるや、当然の如く窓側席に座った。

「お久しぶりです。驚きました?」

「えぇまぁ。で西崎先生は」

「あはは、ご心配なく、一本あとの列車です」

「なんとまぁ。。で、まさか新作のストーリーに合わせて、貴女が?」

「いくら先生の頼みでもまさかそんなぁ。実は次回作の取材もかねてですの」

「ほーう次回作の舞台は京都」

「えぇ北山杉を守り続ける人や、周囲の。。。あー。それより、感心しました。」

「え?」

「今回の企画、さすが佐伯社長ですね。感心しました。初恋物語だけでなく現在進行形を組み合わせるなんて」

「いや別に。。。単なる思いつきだけで」

実体験に基づくアイデアだなんて、口が裂けても言えない。。。

「ここ数年。先生、大スランプだったんです」

「そうらしいね、事務所の新人。。。えーと。。。」

「碧?森島碧」

「そう、森島君も同じことを言ってたなぁ。」

上田は、

「ですから、今回。ほんとうにありがとうございました」

そう言いながら、何度も頭を下げた。

「しかしまぁ・・・」

「はい?」

「西崎事務所の絆て、すごいね。家族以上の暖かみや、強さがある」

「そうでしょうか」

「あぁ、絶対に。。。」

                                                                    ※      

 

 メロディーのあと、車内アナウンスが京都駅到着の時刻やら乗り換え案内を流し始めた。

さてと、吉岡紫織。。。いやもうすぐ、馬渕紫織となるのか。。。

彼女の顔が浮かび、

高野姓、吉岡姓、での今までの彼女の人生を思いやった。

今度こそ 

彼女に真の幸福がどうか訪れますよう。。。

ひと足さき、京都入りし、駅まで迎えに来てくれる筈。

馬渕憲一の笑顔が脳裏をかすめた。

彼なら絶対的に大丈夫。誰がなんと言おうが、そういう確信があった。

絶対 大丈夫。。。。

     

 いよいよ 最終回に つづく

今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。