小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編18

「ありがとうございました」
最後の客を見送ったあと、携帯ショップ “ゼロベース”
若き店長 今野慶一は 掛け時計の 20:20を確認し
店じまいの準備に取り掛かった。

シャッターに手を掛けると 人影が見えた。

「あのーぅ 本日の業務は終了したんですが・・・」


慶一の断りを無視するように
「キキタイコト アル」
妙な三人組が 有無を言わさず 店内に入って来た。

アジア系二人に 一人は彫りの深い顔立ち、かなりの大男で
ビルの天井に今にも届きそうだった。

「コイツ トウコウ シタノ オマエダナ」
アジア系の真ん中の男が いきなりポケットの iPodを
差し出し、再生動画を見せて来た。

「!」しまった。

「コノ オトコヲ サガシテイル」
男が示す指先には あの“ダダダ下り祭”の 例の男の顔が
アップになっていた。

 あまりの感動から 世界中の人に観てもらいたく、内緒で
動画投稿サイトにアップしたものだ。

しかし ナゼ?・・・

「し、知らない・・・ぐ、偶然撮影したもので。。。」
声が震えるのが 自分でも情けなかった。

 クルっ 
いきなりその男 後ろ向きになったかと思ったその時

振り返りざま 空気を切り裂く音
と同時に 円を描く足に見とれる間も無く

ガシッ 衝撃が 慶一の体をぶち抜いた。

横倒しに倒れこむ

 「コノテイド デ タオレルナ・・」
頭上から声が聞こえ 襟首をつかまれ 体を引き上げられる

「な 何を・・・」

かろうじて 意識はあるようだ。

「モウイチド キク コノオトコ サガシテイル」

「だから・・・偶然。。。」

最後は 泣き声になっていた

「ツギ ドコヲ ナグロウカ・・・」
その声で

「ヒィッ!!」

頭を下げた その時・・・

「ははッ 見つけたぞぅ・・・」

入り口で大声が響いた

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秀じぃの漁船に揺られながら “ゴン”は 
やはりあの時・・・
「はッ」


あの時・・・・・・・

ダダダ下り祭 無事に神輿を海に降ろし 潮で洗い清めの儀式を
今 まさにする時だった。

4月の冷たい潮・・・
砂や小石を掴む 足裏のあの感触・・・

昔の記憶が おぼろげに蘇る気がし その後ずっと
手繰り寄せていたのだった。

「はッ! 空手の 寒稽古・・・」

間違いない 氷の海 素足に食い込む 砂や小石
師範の掛け声
交互に 突き出す正拳・・・

そして 少し前の 浜での騒ぎ・・・

身に降りかかる危険から
咄嗟に出た “蹴りや突き”
瞬時に倒れこむ相手

そしてその後の全身を貫く、言いようのない快感・・・

それらを頼りに 飛んでしまってる もう少し前の記憶
が 
なんとなく 思い出される気がした・・・

「ゴン もうすぐ着くぞぅ 着岸の用意や」
秀じぃの声が 潮風に揺れた

「うーすッ」

もう少し ココでの暮らし 続けたいな・・・

素朴で 暖かい 秀じぃや サヤカの笑顔を胸にとどめた。


         つづく