小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編 3

船首が白波を切り裂いて、進む。 やがて姫路の港が近づいて来た。ここまで来ると、 都会の雑多な、ぬくもりのある風が 不快に、 襲ってくる。 キャビンで舵を操作する秀治までは届かないが、 先頭で、仁王立ちで誘導する サヤカにとって、 この雑多な熱気が含まれる都会の風は やはり好きには成れなかった。

やはり風は 潮の香りだけで充分だと思う・・・

余計な香り混じりは

風じゃ、ない・・・

だが、市内で暮らして居たときは気が付かなかった事でもある・・・
サヤカが誘導する手の振りで、ピタリと岸壁に着ける。 長い手足、真っ黒に日焼けし、遠目には漁師修行の若衆に見えるじゃろうて。。。 そう想像すると、秀治は思わず“にやり”と笑った。

『秀じぃ、ナニ笑いよるんよ、早よロープ放って』 岸壁に飛び移ると同時に叫ぶ。 『ほいほい。。。』 せかされて、ロープを放り投げる。 接岸作業はサヤカに任せて、本日の“獲物”を 特製のイケスからタモですくい上げ、発泡スチロールのカゴ2杯に移し変える。

用意はいいかぁ、日の暮れないうち、行くべ

港から歩いて数分の空き地に 軽トラックを置いていた。 島では車は不要だが、ここ、市内では貴重な足だ。

『ひゃーますますオンボロになってるやん この軽トラ』 『文句言うなら、歩いていくかぁ』

『はいはい、』

パタン パタン・・

薄い鉄板を無理やり叩くような音を立てながら、錆の浮き出たドアを閉める。

エンジンは一発で掛かった。

『さあ、出発進行!』

青い煙を吐きながらも、軽トラは市内の街を軽快に走った。。。 。。。

が、 市内の大通りの交差点で信号が青、 さあ、と言うその時突然エンストした。

『あちゃ~、ワシとした事が・・・』

『なんよ』

『ガス欠や、』秀治が見つめる先のメーターは 赤い線を大きく下回っていた。

プワーン プワーン

後方からクラクションが鳴り響く。

サヤカが振り返る。

『やばいよ 秀じぃ、真っ黒なベンツや』

『あは、動かんモノは仕方ないっちゃ』

まあ、一服すっか、

そういいながら 胸ポケットからハイライトを取り出す。

エンストした軽トラの窓から 悠然と煙草の煙を吐く運転手を見、 黒塗りのベンツから 二、三人降りてきた。 一人はナス紺のダブルのスーツを着て居たが、他の連中はジャージ姿だった。

夕方も近いと言うのに 何故か全員サングラスをかけていた。

つづく