小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編22

民自党 麻田幹事長からの電話は いよいよ明日に迫った
大阪府議会議員選挙への激励だった。

とりとめの無い話を終えたのち、タイミングを計り思い切って
切り出してみた。
「ところで 幹事長 先日申し上げていた 昨年末のテロを未然に塞いだと言う うちの従業員なんですが、どうやら消息がつかめそうなんですわ」

〈ほう。。。それで・・・〉



「・・・?」
幹事長の冷ややかな反応に少し戸惑いながらも高城常務は続けた

「いや、その後 どう言う訳か府警とか、国家公安委員会とか捜索に熱心じゃなかったもんで、独自に探してた その男の消息がいよいよ掴めそうなんですわ」

〈すまん 高城常務 その件は 後日。。。〉
「また 逃げるのでっか」

〈いや、逃げるなんてとんでもない 色々と事情が。。しかし私に出来るだけの協力は惜しまない また後日じっくり聞くから・・〉

「そうでっか、じゃあ後日、じっくりと言う事で・・」

電話を切りながら どうも釈然としなかった。

府警の心安い刑事の言葉を思い出した。
今年初め 捜索が突然打ち切りになったのを聞きつけ、
築港冷凍冷蔵倉庫の中岡社長と乗り込んだ時の事だ。

「常務さん、わしら下っぱのデカ(刑事)には分からないんですわ、
突然捜索 一旦中止やなんて、どうも上の方・・
それも国の上からの指示らしいんですわ」
「国民を守ったり、探したりするんが 仕事やろが、ましてや
奴は国の危機を救った英雄やぞ」

その後 府警本部長に掛け合ってみたが 結局同じ答えだった。

「一体 どないなっとるねん」
吐き捨てるように 府警本部を出たものだ。

その後 色々なルートから探って見たものの どうやら日本政府
さらに アメリカCIA・・つまりホワイトハウスからの指示との結論だった。
勿論 単なる推測の域を出ては居ない。

 『国際テロ組織を ヘタに刺激するのは 時期早々だ・・・』

「そんな馬鹿な話があるかぁッ」

「常務 どうされました」
野原秘書が心配そうに駆け寄って来た。

「あ、いやなんでもない、ところで票読み集計はそろそろ終了か」

選挙対策本部のざわめきが 再び耳に入ってきた。
何となく外の空気が吸いたくて外に出た。

西の方の空は 真っ黒な雲で覆われていた。

晴天続きも 今日で終りか・・・
 高城はつぶやき、もう一度上を見上げ 首を回した。


               ※
「島野の兄貴 昨夜はすんまへん」
姫路市中心部の少し外れた場所に、
そう車で2、30分の場所に竹川組本部がある。

早朝 いつもより1時間は早く駆けつけ、
本部事務所で待ち構えて居た ヒロシは やって来た若頭の島野を見るや否や 駆け寄り頭を下げた。

「おぅ、今朝はえらい早いやないか。昨夜? あぁ 事務所に寄らずそのまま帰ったて事か、
ま、タマには許したろぅやないか」

ダブルのスーツ 上着を脱ぎながら笑った。
「ん?顔 少し腫れてるんやないけ 夕べ何かあったのか?」

「兄貴 その件で相談があるんですわ 場合に寄って 二、三日休ませてもらいたいんです」

「おいおい、何言ってるのか 分かってるんか 
その 場合に寄ってって なんやねん」

おそれおそれ切り出した。

「2月の事 覚えてはりますか、あの変な漁師と その孫娘・・・家島の・・・」

「あぁ、あの時のな ウチのオヤジが本家三代目のボディガード時代に世話になったという 
あの漁師・・・」
「忘れもせんがな あの日 久しぶりに車を運転させられ アチコチ走らされたのん、ワシやがな」

ソファーに深々と座りながら そばに立っているヒロシを見た。
「で、それで どないしたんじゃ」

 昨夜の事 出来るだけ詳しく 喋り出した・・
・・・・・・・・・・・・・・・

「なんや それ で 不審な外人組が あの二人の知り合いのタマを狙ってるてか?」

「わしら 極道やど 人助けが商売ちゃうんや」
「それを 何とか 否、人助けやないんですわ ワシのプライドの為なんですわ」

「はは・・ヒロシ お前のプライドて 何やねん」
「兄貴・・・」

「もうすぐ オヤジが来る頃や とりあえずオヤジに言うてみるわ」

「す、すんまへん・・」

「玄関先 掃除終わったのか」
「あ、まだです・・」

慌てて 玄関先に走った。

 冷え込みの後 南よりの風が少し強くなり 雲は広がり始めていた。
 空を見上げ 本降りの雨が来るなぁ・・・

ヒロシは思った。

          つづく