小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編30

ぽつりと来た雨粒は大粒だった。 風が波をうねらせ 見上げた雲は 真っ黒だった。

ゴンこと、コウジ(狂二)は それでも和船の“櫓こぎ”の鍛錬を続けた。 波間での修練が 意味の無い様で とてつもなく意味のある事の ように思えた。

2時間も和船を操っていると 最初、手のひらの感覚がなくなり 腕の筋肉が棒の如く腫れ上がり、足腰が痺れた。 次ぎ 膝が震え出した。最後に意識が遠のきかけた。

今日の練習は此処まで。浜に引き返そうとした時

突然 頭上が光り すぐさま 雷が吼えた。

「うわぁ!!」

思わず しゃがみ込み 臥せってしまった。

近くに落ちた稲光は さらに3発 和船の周りを目掛け 落ちた。

その時 頭の中の 霧が晴れたように 過去の記憶が蘇った。

夜の町を徘徊し 喧嘩相手を求め彷徨ったコト 築港冷蔵冷凍で 体を鍛えた日々

そしてテロリストとの激闘。

最後に 年上の愛しき人 古庄多美恵さんの顔が浮かんだ

走馬灯の如く 次々と記憶が現れ 時間は 現在に戻る。

荒れ狂い出した 海の向こう 隣島の中学校に渡った サヤカの顔が浮かんだ。

「はッ!果たして通学船は就航するのか」

〈ゴン・・・・〉

左の耳奥が コウジを呼ぶサヤカの今にも消え入りそうなか細い 声を聴いた。

確かに 聴こえた。

急いで タケ島の浜に引き返すべく 痺れた手で 再び “櫓”を握り締めた。

※ 神社の宮司が危ない・・・ 情報屋の佐々木淳一は 消防団の団長に訳を話し、若い衆2人と共に 神社からの坂道を 再び駆け上った。

はぁはぁ・・・息咳切って 社務所に駆け込む。

「おやまぁ、先ほどの・・・」 宮司は 呑気に庭先の枯葉を 竹ぼうきで掃いている最中だった。 時おりの雨は止み、その代わり 南からの不気味な風が 葉っぱを 舞い散らせている。

苦しく声が出ない 佐々木に代わり 若衆が尋ねた。 「怪しい三人組、此処へ来なかったですかぁ 神主さん」

「ああ、さっきの奴ら。。。先ほど追い返した処ですよって」

「で、なんとも無かったすかぁ」

「あんな若造の二人や三人 どぉーてあらしまへん」

「あ、そや 神主さん こう見えても 合気道5段や」

「そうでしたか・・・で 奴ら 駆け上る時にすれ違わなかったが、 麓へ戻る道は他にも。。。?」 ようやく佐々が声を振り絞った。

「いや、麓への道は。。。」

若衆が言いかけて 「あッ!」

小さく叫んだ。

「学校への 裏道や。。。ワシら ガキの頃 学校をサボって神社へ 遊びに通った 抜け道がある。。。」

「そいつや 今度は学校かぁ・・・」もう一人の団員が悲壮な声をあげる。

「元 刑事さん また坂を一緒に降りてくれますか」

『勿論。。。』心の中で 小さくつぶやいた。

アマチュア無線の交信傍受を続けていた 今野慶一は それらしき交信を録音し 一旦会話が途絶えた時を見計らって 英語翻訳ソフトを呼び出した。

韓国語での会話は少しで、殆んど英語での会話だったのでなんとか 翻訳できそうな気がしたのだ。

We 100 main body people safely rushed into the Inland Sea.

G operation is carried out at three o'clock of tomorrow morning. ..securing the base in Ieshima.. try. and Was the position of the Ume island gripped?

 

我ら本部百名 瀬戸内海に無事突入した。 G作戦は明朝3時に決行したい。家島での作戦基地の確保に努めよ

そして。ウメ島の位置は掴んだのか?

「うぐッ 本部百名・・・G作戦・・・やつら三名だけと違うのか

ウメ島! 果て?」

PCの前で ワナワナ震えた。

「なぁて、さっきからどうしたん なに言ってるの」

横でひろ子が 心配そうに覗き込んだ。

「家島に ウメ島て あったけ?」

「いや 知らん ケドなんか聞いたコトあるような無いような・・・」

とりあえず やっぱ 昨夜の刑事さんに連絡するわ。。。

胸ポケットから くしゃくしゃになった名刺を引っ張り出した。