小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

ミモザの花が散ったあとに 7

「あほッ 自分で慰めてただけや」
「え?慰めるてナニを」
彼女はさらに真っ赤な顔になって「あほ」と云いながら テーブルのフキンを投げつけ笑った。
投げつけられたフキンは、首に当たったあと、膝に落ちた。湿ったそれを拾い上げながら
「そんなあ。いったい何ですの」
「まだわからへん?」
「だから・・・」
「漢字で書いてみたら分かる。。。」
「は?。。。」
「まだ云わせるか」
「なにを」
「。。。。」
彼女はうつむいたまま黙り込んでしまった。
しかたなく脳内で先ほどの言葉をなぞってみた。「自分で慰め。。。。」
あ!
 え?まさかと思いながら小さく叫んだ。
彼女は、やっとわかったか。あほ。とでも言う様に眼を合わせたあと、そっとそらした。
なんと間抜けな・・・・
もう少し早く、たとえば彼女が真っ赤に顔を染めた段階で気づくべきだった。
けれどまさか、そんなぁと、もう一度彼女を見た。
どちらかと云えば昨日までの彼女は、さばさばとした”年上のいかにも頼れる女性。という印象だったのだが、目の前の彼女は妙に顔を赤らめたまま。
さらにはもじもじと乙女のような”恥じらい”をみせ箸を動かしている。
心底恥ずかしくて堪らない。そういう感じで、初めて彼女に”女性”を意識してしまった。
一方・・・・まるで断末魔のようだったあの呻き声。
苦しみ以外の何物でもなかったようにも思う。体の不調を悟られまい、余計な心配をかけまい。とする気遣いの嘘と演技では? 
妙な混乱も同時に起こり始めていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・けれどやはり刺激的な言葉の意味に気づかされ、変な想像が膨らんでしまった。
頭のスミでなにかが弾けたようでもあった。下半身が熱くなり始め、胸がドキドキと鳴った。
「まぁそういう。。。」彼女はうつむき加減で何ごとかつぶやいたが最後の方は聞き取れなかった。
「す、すみません」
「あやまることない。。。食器片づけるね。。。」彼女はすっかり少女の口調で立ち上がり、手を伸ばしてきた。そのとき、ふわりと甘い香りが漂い、膨らみ始めた何かがついに弾けてしまった。
気付けば彼女の手を握り、引き寄せながら僕も立ち上がっていた。
彼女は小さく あ、と叫びながら僕を見つめた。
僕の方も間近で見つめ返した。よく見ると顔の雰囲気も昨日までとなんとなく違っていた。
その瞳は少し潤んでもいたようだった。
あ、眉・・・・昨日までは自然のままで、太くて直線だった眉が、弓なりに細くなっている。なんとなく違う印象はこれだったかと思いながら見つめた。
彼女の、ほんのり赤くかたちの良い唇が開き「えぇ。。。」と返事しながら「あ、やっぱあかん」と抵抗をみせた。
僕は「あかんことないや」と云いながら力を込めた。
彼女の手の温かい感触に、ひたいにあて熱を心配してくれた時のことを思い出した。
あの夜篠原さんは一睡もせず、ずっと介抱をしてくれていたのだった。
テレビからは、またもあのルビーの指輪が流れていた。

たとえクリーニングが出来あがったとしても、世間ではゴールデンウィークに突入。
ふと、べつに慌てて家に帰らなくてもいいのでは。そういう考えがよぎったのだった。

                          つづく
※ 言うまでもありませんが、当記事は フィクションです万が一、実在する、あるいは良く似た、いかなる個人名、団体名、地名、出来ごと、などが出現しようとも 一切の関係はございませんので。あと、ついでに言わせてもらうならば、これは「ミモザの咲く頃に」シリーズの続編でもあります。(-_-;)