小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編51

地下鉄永田町駅構内の柱時計は3時少し前を指していた。
寺島は 何気に
 「そろそろ休憩時間か・・・
  しかし首相官邸に果たして休憩時間など あるのやら・・・」
行き交う人々の蒸せるような熱気に押されながら 考えた。
いつ来ても東京は人が多いのう。

が、まもなく携帯が鳴る。勿論相手は官邸職員の細川。。。
そんな予感があった。
一旦は島根に帰るつもりで 東京駅までの切符を買ったものの、
何か情報が得られる。そのような勘が働いた。

ホーム反対側、一駅先の “青山一丁目”に行き先を変えることにした。




そこには落ち着いて会話の出来る
お気に入りの珈琲ハウスがあった。
 前回立ち寄ったのは晩秋の季節だった。
店の周囲は見事な黄金色の銀杏並木に覆われ、
黄色く色づく銀杏の葉が肩に降り注いだ。
東京にもこんな場所があるのか 年甲斐も無く
実に感動的した場面が蘇った。

昨秋上京の際、A木代議士と一緒に細川も
訪れた店だから直ぐに解る筈だ。


また、万一こちらから永田町に舞い戻るにしろ、
タクシーさえ拾えれば ものの5分と掛からないだろう。

そう思うと 先ほどまでの欝な気分も吹っ飛び、希望が湧いてきた。
高い出張経費をかけて 東京まで来たのだから、手土産無しでは
地元島根には 帰りにくい・・・。


              ※

「おい この横顔 お前だろ」
男がiPODの画面をサヤカに差し出した。

「え、何故? これ・・・」
その小さな画面には
まさしく あの“ダダダ下り祭”のひとシーンが映し出されていた。

お神輿を担ぐ “ゴン”のアップに切り替わった時
「コイツを探している・・正直に言え」

命令口調に切り替わり 男の形相も変わった。

ゴン・・・・・懐かしい。
何やら数年ぶりな感じだった。

丁度その時 表の玄関あたり ゴツンゴツン 叩く音が鳴った。

風!?

いや違う 風の仕業にしては ハッキリとした叩く音が感じられる。
まさかとは思うが 人工的なリズムを刻んでいる。

「見てくる・・・」

弟分の方が立ち上がった。

数分後

「アニキ 変なジジィが “迎えに来やした”
 そう云って 表で突っ立ってますが」
云いながら帰ってきた。

「あーん? 迎えに・・・って 誰をや 
それにこの嵐の中 どうやって来やがった」

秀じぃ!。。。。サヤカは直感的に確信した。

こいつら 見張っておけ。

キム・ジョナンはそろり駆け寄り、玄関側を覗いた。

蹴り上げたドアは床に倒れたまま 風雨は入り込み放題のままだったが 
人影など見あたりはしない。

「そーら 見ろ 誰が来るものか」
Uターンしかけた時

 

覗き込む老人の顔があった。
しばらくすると扉の向こうに消えた

「おい」
駆け寄り 注意深く 外側を覗きこんだ時 

ビュんッ 風切る音が唸った。

咄嗟に首をすくめ そろり横から覗き込む。

!!! 

ここ数ヶ月 探し歩いた そいつが笑っていた。

去年見かけた時は ひょろ長いだけの図体、
それに青白い顔だったが

今年のそいつは
丸太棒のような腕を覗かせ 顔は赤銅色に日焼けしていた。

「ここまで来るのに 死ぬかと思ったぜ」
吐きながら

右からのパンチが跳んできた。

予想をはるかに超える速さだった。

わき腹に喰らい、「うぐッ」

一瞬息が止まる。

「秀さん 今の間に サヤカを・・・」
その男が叫んだ。

そ、そうはさせるか・・・

「リぃ ッーーー!!」

奥に向き ありったけの声を振り絞る。

が・・・・

「よう 秀じぃ 久しぶり。会いたかったぜ」
笑いながら 船頭の長谷川が 全員を引き連れ 突っ立っていた。

相棒の リ・スンヨクは?というと
腕を後ろ手に捻られ 激痛に引きつった形相をしていた。

「ゴン 遅かったやん・・・」

横顔の女が叫んだ。

「・・・?コイツ ゴンて名前だったっけ・・・」

殴られ 遠ざかる意識の中で ふと考えた。



        つづく