小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編58

「みんな 乗り込む前に 再確認や」
大沢団長が オイルタンカーの設計図を元に書いた
簡単な見取り図を見せた。

「ここがハウスつまり事務室やら乗員の為のベッドルーム、食堂がある、
ハウスの真上が ブリッジ 操舵室や」
「じゃあ我々は ハウスに?」
「多分それはないだろう・・・」
大沢は顔をしかめ、ハウスの下を指差した。

「おそらく このエンジンルームに押し込められるだろう」
「げっ そんな狭いところに?」
「いや、エンジンルームと言っても 車のエンジンルームとは違い
工作室、備品置きルームなどが完備 結構広い・・・ただ・・」


「ただ・・何ですねん」
「空調が最適とは言えない」
「はは・・・一刻も早く敵を倒し、エアコン付きのベッドルーム奪還や」
ヒロシがはしゃいだ声を出した。

「エンジンルームの横が原油の貯蔵庫ですな」
佐々木がヒロシを無視するように大沢の顔を見た。

「そや、おそらくエンジンルーム 貯蔵庫前が 敵の中でも選りすぐりの
奴らが張り付くと見る」

「銃は?」ローレンスの顔を見る。
「本隊とは云え百名全員装備しては居ない筈だ」
キムが代わりに応える。
「エンジン室や、原油貯蔵庫付近では 銃の使用は控えるのでは」
「もしそうなら 勝機ありだがな」
「いや、奴ら人間凶器と呼ばれる程 拳法の達人でもある 油断は禁物だ」
「ローレンスやキムらクラスが百人・・・」
「おまけに 何人かは AK47と呼ばれるカラシニコフ銃を装備かぁ」
 ヒロシがつぶやきながら、腹巻に忍ばせた拳銃を握り締めた。
「怖いんやろ」学生グループが挑発した
「ば、ばか云え、早く乗り込みたくてうずうずだぜ」

                ※
ウメ島桟橋に ひょいと跳び移ると 秀じぃは係船柱と呼ばれる突起に
ロープをくくりつけた。

『やれやれ 永年上陸出来なかった古里の島に 二回も上陸するとは』

キャビン室工具入れから引っ張り出した懐中電灯のスイッチを入れた。

真っ暗闇の前方に 一筋の灯りが照らされた。

風は依然として 吹いていたが 雨はやんでいた。

シャツ胸ポケットからクシャクシャになった煙草を取り出し、
手で囲いをつくり器用にマッチを擦った。
深く吸い込むと 再び
「やれやれ・・・だわい」つぶやいた。

 昼間、この島にやって来た 双子の弟。田嶋竜太が経営する会社の者
と称する男たちとの会話を思い出していた。

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「もしや あなたは 田嶋社長のお兄様で」
口ひげを蓄え 精悍な顔つきの男が聞いてきた。
「あ、オヤジと瓜二つや」
傍らの若い男も声を出した。
ゴンとの再会をふざけ合いながらも喜んでいた青年だ。

「おまはんらは?」
「申し遅れました 私は高城と申し 田嶋総業でご厄介になっており・・
こちらは 竜一君、竜太社長のご長男であられます」

「竜一かぁ 大きゅうなったの。ワシの記憶では赤ん坊のままや
ところで ゴン・・・本名はコージ君て云うのか ま、当分ゴンで
ええやろ・・・ゴンを探しに よくココが解ったのぅ」

そのあと ゴンらとテロ組織の格闘の話とか 海に飛び込んだ後 
行方不明 そして記憶喪失になった件 色々話し込んだが 問題はその後だ。

「ところで 貴方さまと、田嶋社長が絶縁された原因 聞いております。
このウメ島に秘密があったのですね」
「ああ、あんな奴 兄でもなければ弟でも無い 故郷の島を金で 食い散らかそうとした 亡者や」
竜一が悲しそうな視線を向けた。
「あ、竜ぼん おまはんには責任ないで」
「叔父貴・・・の言う通りですわ この島にとんでもないモノを埋めたばかりに

テロの餌食にさらされるなんて・・」

「あん?とんでもないモノて 何ぞい?」
「実は・・・・」
田嶋総業 常務取締役 高城と申す者の苦しそうな表情が印象的だった。
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島に不釣合いな コンクリートの建物・・・
目の前に現れた。

孫娘サヤカが閉じ込められていた場所だ。

「こんなモノを造りやがって」
毒づいたのち、壁際の電灯スイッチを探した。

数年前
「全くの無人にしてしまえば 島は荒れる 一年に何度か上陸して
ワシらで手入れをしようやないか」
マツ島に渡った 民宿の長谷川が言い出し 旧島民ら共同で 作った風力発電のスイッチだ。

「ここで役立つとはのぅ」

さてと・・・

倉庫の扉を開け ハンマーと、ツルハシ、スコップを探した。

プルトニウムとやらを 掘り出しに行くとすっかぁ」

短くなった ハイライトを床に捨て、長靴の底で揉み消した。

風は相変わらず 吹き荒れていた。



     いよいよ 最終章に つづく