小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

続・狂二 波濤編61 最終章中編 続き

ローレンスの無線が鳴った。
「もうすぐ 監視役の連中がやってくる」
ローレンス、キムジョナンら以外の連中にも我々を監視させるらしい。
キムが無線の内容を通訳した。
 ほどなくして、エンジンルーム前に何人かの
靴音が聞こえた。 

「ひとまずそいつらを叩く」
「いきなりでは 他の連中に気づかれやしないか」
佐々木がキムに言い返したが
「いずれ気づかれるなら 早い方が」
高城常務が大沢の顔を見ながら云った。



「飛んで火に入るなんとかだな、さっそく始めるか」
大沢が決断した。

外していたロープを見張りの連中が入ってくる前に 大急ぎではめ直す。

コツッ ドアをノックと同時に 10人ほど入ってきた。
うつむき加減ながらもコージが連中を観察した。
幸いにも機関銃を持っているのは 一人だけだ。
後ろ手でロープをこっそり外しながら そいつとの間合いを計った。

いける!
確信し、キムに目で合図した。

ローレンスと共に 連中と二言程話こんでいたキムが 
裏拳で背後の兵士の顔面をつぶす。「ウギャッ」叫びながら
顔を両手で覆いながら崩れるその兵士の
背中にとどめの肘打ちを見舞う。
同時にローレンスも左右の兵士に蹴りと突きを浴びせながら
跳び上がった。着地する頃には 兵士らも倒れこんでいる。

「オー ノー!!」唯一 機関銃を持った兵士が叫びながら
キムに銃口を向けた。
が 引き金を引く前に 跳躍したコージの蹴りが炸裂。

ガラガラ・・・・派手な音を立て 機関銃が床に転がる。

慌てて機関銃を追う兵士の首に、コージの回し蹴りが炸裂。

床に倒れ ピクリとも動かない。

機関銃は坂本の目の前に転がる・・・ひょいッと拾い上げた坂本
隣の 中岡に手渡し、「ワシも やっぱ拳(こぶし)がええわ」
云いながら 跳躍 唖然と立ち尽くす 他の兵士に突きやら、蹴りを見舞う。

おそらく応援の無線を呼ぼうとしたのだろう。
一人が胸ポケットのハンド無線機を取り出す。
が 
「コラァ そうはさせるか」ヒロシが叫びながらパンチを浴びせる。
が、よろめくも ヒロシに立ち向かう兵士。
高城常務と竜一 ほぼ同時にその兵士を左右から蹴り上げる。

さすがに 受けたダメージがきつく 床に倒れこむ。

ガキの頃から番を張り、地元では怖いもの知らずだった鶴野健太 
コージに出会い、『井の中の蛙』を散々思い知らされていた。
「こいつら レベルが違いすぎるがな」
あきれた目で見つめていた。

そんなこんなで わずか1分足らずの間に 10人を倒した。

「あと90人」

大沢がつぶやいた。

「今の調子なら 9分・・・インスタント麺 三人分や」

誰かが答えた。

                ※
秀治は その昔 弟の竜太と よく遊んだ場所にやってきていた。

うっそうと茂った森は昔のまま。山の中腹にあるその場所からは
海原を見渡す事が出来た。

晴れ渡った日には 本州の山々を見渡しながら、
大人になる日の夢を語り合ったものだ。

雨は小止みになったが 風が相変わらず強い。

海原は大荒れだろう。真夜中の今 島影はおろか、波頭さえ
見えない。
時化(しけ)でなければ 漁り火の二つ三つ、沖合いに見える頃だが、
さすがに今夜はゼロだ。

が ガキの頃見た 風景が 鮮やかによみがえって来た。

『アイツが隠しそうな場所・・・』

幾つもの坂道を登り 草木を踏みしめ ようやくたどりついた。
倒木に腰掛け 煙草に火を点けた。

「ええかげん 止めなよ 煙草」
サヤカの声が 再び聴こえた。

「はは、これが最後の煙草だろうて・・・」

吐き出す煙は 風に吹き飛ばされ、まといつく暇も無かった。

『我が人生に お似合いじゃな』

根元まで吸い込み 短くなったそいつを 指で弾き飛ばした。

風に乗り 海の沖合いにまで 飛んで行った。

「さてと・・・」

立ち上がり 肩に担ぎ上げ持ってきた ツルハシを振り下ろし始めた。


     いよいよ 最終章 後編につづく