小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

ミモザの花が散ったあとに 34

「はい了解しました。もう結構です。今後船場さんとの交渉は二度とすることは無いでしょう。では皆様サヨナラ」

通訳が言い終えるのと同時だった。
ガタッ。
椅子の音を派手に響かせ、カルベロは席を立った。
一瞬のあいだ会議室は静寂に包まれる。だが、
「あほんだらあ。川村ッ。何とかせんかぃっ」国光の怒号が響きわたり、それを機に騒然となった。

国光に言われるまでもなく、川村と横山は必死の形相で、追いすがっていた。
彼女の行く手に立ちふさがるや、平身低頭、身振り手振りで、必死の説得を始めている。
三田村も通訳役の社員を引っ張り、説得の輪に駆けつけた。中沢は?と見れば、最初のうち躊躇していたものの、説得の輪の中に入って行った。
囲まれたカルベロ。一応は立ち止まり、川村らの説得に耳を傾けてくれている。
だがときおり、こちらを振り返るや、もの凄い剣幕でまくし立てた。

そのカルベロが指し示した方向。当の清水。一体なにごとが始まった?とでも言うような表情で座り込んだままでいる。
そのとき、自分を呼ぶ声に
え?と、振り返れば三田村が、しきりに手招きしている。
え、この俺ですか?
ひとさし指でアゴを指すゼスチャーをすると、
そう、ええから早よ来い。とでも云うように、頷きながら手を振った。
駆けつけてみると
「奴を引っ張って来い」
「え。清水さん?」
「ここは本人が謝らな、収まらん」
清水は、ようやくコトの重大さに気づいたのだろう。すっかりしょげてしまっていた。

「そんなぁ。。。僕には無理です」

「躊躇してる場合かぃっ」
肩越しに野太い声。
いつのまにか国光ら役員たちも背後に居た。
国光と顔をあわせるや、よおっと手を挙げ、さっさと引っ張って来い。嫌やゆうたら、部屋からつまみ出せ。

「そ、そんなあ。。。。」

何を思ったか三田村はカルベロに
「ミス、カルベロッ」と叫び
通訳係の子に目配せをし、言葉を続けた。
「この森野が云うには、本人、あの清水が謝罪をしたいと言ってるそうです」
「え、そんなの言ってないすよ」
だが時遅し、通訳の子は言い終え、カルベロはまさかと云う表情で清水を振り返った。
心持ち、怒りの表情は収まっている。

国光が 耳元で
「森野。いま、このタイミング逃したらあかん。さっさと連れて来ぃ」と囁いた。

「あ、はい」

 え! やはり俺(あ、はい)て言ってる・・・・

覚悟を決め引き返したが足取りが重い。

「し、清水先輩」
清水は
「あ、あぁ」と虚ろな眼で顔を上げた。
え、この表情・・・・・。
しかしまぁ。本音としては、清水の云うとおりだと思う。売り上げアップのどこが悪い。。。
清水の正直すぎる性格が不憫にも思える。
ふと妙案がひらめいた。
「カルベロ氏、あぁ云う風に怒ってしまったものの、清水先輩に謝罪したいそうです」
「え、ほんまか」
ようやく清水の顔に笑顔が戻る。

「えぇ、じっくりと話し合いちゅうか、なんちゅうか」
「ほんまか」清水は云いながらカルベロの方を振り返った。
うまい具合にカルベロも清水を見つめ、視線が合うところだった。
そしてどういう訳かカルベロが微笑んだ。
「あ、ほら。先輩を見て笑ってはる」
「う、うん。そりゃあ俺、何も間違ったこと言ってない思う、森野もそう思うやろ」
「え、えぇ。。。あ、けど。。。。」
「けど。。。。なんやねん」
「ここはひとつ。。。。相手は女性」
「う、うん・・・・。」
アメリカではレディファーストの国。とりあえず一歩譲って先に謝罪してはどうでしょう?」
「は、はあ!?」


              つづく
※ 言うまでもありませんが、
当記事は フィクションです
万が一、実在する、あるいは良く似た、いかなる個人名、団体名、地名、出来ごと、などが出現しようとも 一切の関係はございませんので。
あと、ついでに言わせてもらうならば、これは「ミモザの咲く頃に」シリーズの続きでもあります。

(-_-;)