小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

ミモザの花が散ったあとに 37

順調な時ほど、どえらい事が起きる・・・・

国光常務の名言だが、逆に言えば

どえらい後には、幸福がやってくる・・・とも、言えまいか。。。。

突然だったカルベロの来日から早や1ヶ月。清水の発言をきっかけに、ひと騒動あった初の会合。だが、それが効を湊し、その後は嘘のようにコトが進んだのだった。企業対企業、初めての合同会議。普通ならばお互いの腹のさぐり合いに終始し、初回だけでは決まらない案件が多いものだ。だがあの時、お互い遠慮のない、まったくの本音だけが飛び交う有意義な会議となったのだった。双方が抱える問題を共有の問題として認識し、相手側への理解を示す結果となったのだった。もっとも”和”の文化に対し、尊敬と憧れの念を抱いていたカルベロクラロ。方や、海外の文化に深い関心を寄せ、どん欲に何事も取り入れようとしていた船場商事の首脳部。お互いの欲求が絶妙に絡み合い、双方ともに満足のいく結果をもたらしたのだった。
一抹の不安があった(主張しないブランド)。これについても、当時としては画期的なコンセプトとしてマーケットの反応は思いのほか良く、各メディアから好意的に取り上げられ、大々的に報じられたこともあって、幅広い世代に受け入れられたのだった。
仕事の面では上々のスタートを切ったのだった。

 だが。。。。一方。

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明日の天気予報を見ようと点けたテレビ画面から、無情の雨に散る桜の映像が流れていた。
梅雨空のような気圧配置が当分のあいだ続きます。皆様どうか体調管理にご注意ください。
そうつぶやくお天気キャスターの表情に、今夜も癒やされた。
ところで。。。。
3月始めに届いた森野からの回顧録。何度目かの読み返しを終え、カレンダーに目をやった。確認するまでもなくすでに1ヶ月以上の空白があいたまま。
”だが。。。一方。”ここでぷつりと途切れたまま、続きはなかなかやって来ない。。。。
書くのをためらう程、よっぽどの事があったというのか?

それまではほぼ定期的に届いていた。
船場商事常務取締役兼、チャレンジスプリッツ日本法人社長。森野彰の回顧録。いつかの席上、ダメもとでお願いした彼の自伝回顧録。半年の間、逢うコトが在っても話題にふれることもなく、すっかりあきらめた頃だった。突如メールによる通信が始まったのだった。最初は1週間ごと。やがて二週間ごと、と間が空いたものの、律儀な森野らしく、そういう時は(遅れますメール)がきっちりと寄せられた。だが今回の中断に限り何の音沙汰もない。
もっともそういう自分だって、今年7月から始まる「任侠探偵」のテレビドラマ化にともない、脚本家や、制作現場との慣れない打ち合わせ仕事に忙殺を極め、超多忙な毎日だった。それもようやく先が見えつつあり、するとまた森野の回顧録が気になった。

え!
まさか。現在進行形で森野の身に何かあったと云うのだろうか。

”続き”を催促するようで、ずっと躊躇し続けていたが、もしそうなら。。。
あわてて携帯を取り出した。

「あどうも寺島さん」

ん!

意外にも明るい声だった。だが彼特有の気遣いから来る声かも知れない。

「どうも申し訳ない、今、電話大丈夫ですの?」
時計は午後10時になろうとしていた。
「いやあ、ぜんぜん」
「社長業と商社の重役業の掛け持ち。さぞかし大変でしょう」
本題に触れずに探りを入れる。
「。。。。。。。。。。。」
え。この沈黙は。。。まさか。。

すると

「いやはや申しわけない。ミモザ。。。続きのコトなのでしょう」
「え、ま、まあ。」
「私も、そのことでこちらから電話をさしあげようとしてたところなんです。申しわけない」
「あ、いや。全然ご心配なく。特に締め切りとか関係のないモノですから。ただ単に続きが気になっただけでして。」
「そう言っていただけると。。。で、寺島さん」
「あ、はい。。。あ、私も あ、はい て言ってますわ。で、何でしょう」
「はは。あさって金曜の夜、都合つきませんか?」
「あさって?。えぇ、大丈夫です」
「申しわけない。じゃあ宗右衛門町の鳥越なんですけど」
「え。鳥越。。。。まだお店の方。。。」
「えぇ、あのマスター。80を越え、まだまだお元気でらっしゃいます」
「うわあ。そうなんですか。じゃっ。あさって楽しみですわ」
「じゃあ。」

バー鳥越。。。すっかりバーチャルな錯覚があったが、店名も実在だったのだ。
あのマスターに逢えると思うと、なにやら沸き起こる感情を抑えきれずに居た。
 森野の声が残っている携帯をいつまでも眺めていたのだった。

             つづく
※ 言うまでもありませんが、
当記事は フィクションです
万が一、実在する、あるいは良く似た、いかなる個人名、団体名、地名、出来ごと、などが出現しようとも 一切の関係はございませんので。
あと、ついでに言わせてもらうならば、これは「ミモザの咲く頃に」シリーズの続きでもあります。

(--;)
それと 狂ニシリーズ4とも奇跡のコラボを果たし、
森野夫妻の登場は同シリーズ31からです。よかったらそちらも (-
-;)