小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

そして、池上線18

ドキドキしながら、受付へと向かった。

頭の中では、なんと切り出すべきかあれこれ考え、やはり引き返そう

とか、あ、いやいや、やはり返却期限のことも気がかりだ。と

自分を奮え立たせたりした。

だが

え?

受付には高野さんの姿はなく、時おり見かける職員ひとりだけだった。

かなり年輩の、すこし苦手なタイプの女性だ。

「あのう高野さんいらっしゃいます?」

「はい?」

とっさに

「あ、いえ、返却日を確認したくて。借り出し票忘れてきたので。野口冨士男の」

すると

「キミもしかして佐伯君?」と訊いてきた。

「は、はいそうですが」

「あーちょうどよかった」

「え?」

「高野から申し送り受けたとこなの。あ、彼女先ほど退館させてもらったとこ」

「申し送りと言いますと?」

「ここ来たとき、何も言わなかった?彼女」

「えぇまぁ・・・・」

「返却期限、本当は昨日だったの。野口冨士男、風の系譜。。。」

「え!そうだったのですか。す、すみません」

「あ、もちろん再貸し出してことで、ここにサインと印鑑で。。。あ、ハンコある?」

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ホッとしたのも正直な気持ちだったけれど、

やはりガッカリの失望の方が大きい。

彼女。。。高野さんが僕の時間を気にしていたのは、

ただ単に、返却期限が過ぎていて、 この僕が図書館に現れるかどうかだけが気がかりで、あの(あら、。。。) の言葉がつい出たのだった。。。。

 そこまでの回顧録を西崎とも代にメール送信し、ほんの数分後だった。

「あーはははは。ナニこれ。けどホンマなん?ハナシ作ってない?」

ガラケー携帯の受話スピーカーから西崎の声が響く。

「もちろん、今さら何の作り話など」

「なんか信じられへん」

「え、どこが」

「男て、たったのひと言、声かけられるだけであんなに、ドギマギて言うか

あれこれ考えてまうん?」

「え、まぁ。もっとも自分だけかも。その頃は特に。何せ、ずーと女性恐怖症やったから」

「ウソ!初めて聞いたわ、それ」

「ウソ違う。前、中学ん時のこと話さなかったっけ」

「バスケのエースだったんしょ」 バスケ

「バスケ、入部の初日で辞めた。んで伝説的な笑い者に」

「あー。思い出した。それ。片思いだった子に根性なして笑われ、バカにされたとか。

まさかそれ大学まで引っ張ってたん?」

「うん。まあ」

つづく

今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。