ドキドキしながら、受付へと向かった。
頭の中では、なんと切り出すべきかあれこれ考え、やはり引き返そう
とか、あ、いやいや、やはり返却期限のことも気がかりだ。と
自分を奮え立たせたりした。
だが
え?
受付には高野さんの姿はなく、時おり見かける職員ひとりだけだった。
かなり年輩の、すこし苦手なタイプの女性だ。
「あのう高野さんいらっしゃいます?」
「はい?」
とっさに
「あ、いえ、返却日を確認したくて。借り出し票忘れてきたので。野口冨士男の」
すると
「キミもしかして佐伯君?」と訊いてきた。
「は、はいそうですが」
「あーちょうどよかった」
「え?」
「高野から申し送り受けたとこなの。あ、彼女先ほど退館させてもらったとこ」
「申し送りと言いますと?」
「ここ来たとき、何も言わなかった?彼女」
「えぇまぁ・・・・」
「返却期限、本当は昨日だったの。野口冨士男、風の系譜。。。」
「え!そうだったのですか。す、すみません」
「あ、もちろん再貸し出してことで、ここにサインと印鑑で。。。あ、ハンコある?」
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ホッとしたのも正直な気持ちだったけれど、
やはりガッカリの失望の方が大きい。
彼女。。。高野さんが僕の時間を気にしていたのは、
ただ単に、返却期限が過ぎていて、 この僕が図書館に現れるかどうかだけが気がかりで、あの(あら、。。。) の言葉がつい出たのだった。。。。
そこまでの回顧録を西崎とも代にメール送信し、ほんの数分後だった。
「あーはははは。ナニこれ。けどホンマなん?ハナシ作ってない?」
ガラケー携帯の受話スピーカーから西崎の声が響く。
「もちろん、今さら何の作り話など」
「なんか信じられへん」
「え、どこが」
「男て、たったのひと言、声かけられるだけであんなに、ドギマギて言うか
あれこれ考えてまうん?」
「え、まぁ。もっとも自分だけかも。その頃は特に。何せ、ずーと女性恐怖症やったから」
「ウソ!初めて聞いたわ、それ」
「ウソ違う。前、中学ん時のこと話さなかったっけ」
「バスケ、入部の初日で辞めた。んで伝説的な笑い者に」
「あー。思い出した。それ。片思いだった子に根性なして笑われ、バカにされたとか。
まさかそれ大学まで引っ張ってたん?」
「うん。まあ」
つづく
今更ながら、言うまでもありませんが、当シリーズはフィクションです。 従いまして、地名、名前 等はすべて架空のものです。万が一 同姓同名同社の方が居られましても、なんら関わりは御座いません。