小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 Ⅲ 断崖編 その32

2010年4月1日 午前10時20分 第二紀伊田辺ビル 101号室 宇佐美企画応接室

佐々木は、頭を抱え込んだ宇佐美社長を目の前にし、 強引に賃貸契約させたという某国議員の存在が気になった。 (またしても国際テロに発展する事件なのか) 麻田元首相と昵懇の仲である高城社長に、報告がてら電話をせねば。。。 宇佐美議員と麻田元首相とは所属する派閥は異なっていたが、犬猿と言うよりむしろ友好関係にあったと記憶する。

その前に・・・ 「彼らと直接お会いされたと思うのですが、彼らの印象はどうだったのでしょう。 その、つまり、先ほどおっしゃった”得体の知れない”印象だったかどうか、ちゅうことです」

「はあ、それが、結構紳士的で何の不信感も抱かなかったのが正直なところです。ただ・・今思えば、眼つきが冷酷。よく言えば知的。悪く言えば、ぞっとするような冷たい印象でした」

「なるほど、で会われたのは五人?」

「いえ、契約の時だけですから、一人だけでした」

「その男は、やはりアジア系?名前など、よろしければ」 「名前は確か。。。」 ファイルの契約書を繰りながら続けた 「あ、はい、氏名はリー・チェンチャイ、ですかね、英語でのサインだったので。 契約書記載の国籍は中華人民共和国です。ただ本人は少し浅黒い顔でした。目つき以外は、どことなくつかみ所の無い顔というか、どこにでも居る顔つきでした。あと、日本語はかなり堪能でした。あ、そうそう法律にも詳しいのか、契約書で疑問に思われた事をズバズバ指摘され、やや焦ったのを思い出しました。まぁ、こっちも無理矢理な案件、適当に作成したことも事実ですし、何といっても外国人相手の契約は初めてだったので勉強不足な箇所もあったのですけどね」

佐々木と栗原は契約書のサインを確認した。 確かに(Lee,ChenChai)英文字でサインしてあった。 正式な漢字名は不明だ。 「中国・・・冒頭に云われた某国議員の某国て、中国?」 「いえ、違います。米国です」 宇佐美社長は断言した。

「米国と、中国、それにファックスの送信先は英国とありましたけど、そのあたり複雑ですな、親父さん・・あ、いえ宇佐美議員はそれほど各国に広い顔があったのですな。失礼な言い方ですが」 「あ、いえ、なにせ地方出身議員ゆえ地元には顔が利いても、国際的には自慢できるほどの事などありませんでした。ただ・・ 通産省(今の経済産業省)の大臣の頃、幾度となく対米貿易交渉でアメリカ側と交渉した程度です。おそらくその時の相手議員だったかも知れません」

通産大臣・・・かなり前の話ですな」 確か10年ほど前ではなかったか。 記憶を手繰り寄せ、佐々木が訊いた。

「はい 私が大学生でしたから、もう12年前です」

宇佐美議員。地方出身者が持つ素朴で人柄の良さを単に利用されたのだろう。おそらく当時のコネから、訳もわからず強引に契約を強要させられたのだろう。 相手の米国議員・・・それも米政府、CIA,他なんらかの組織から圧力をかけられているとも考えられる。もしそうならお手上げだ。

佐々木は前回の家島騒動、築港騒動で知った、日米両国政府の裏の裏にうごめく不可思議な団体の存在をおぼろげに知ってしまった。 勿論、推測にすぎないのだが。。

「あと一つだけお伺いしたいのですが、彼らはバイクを乗り回していた形跡があるのです、ビルには駐車場がありませんでしたね、もしやガレージとか、別に契約など交わしてなかったでしょうか」

「あ、はい確かに。駅前から離れ、不便なのですが、シャッター付きガレージを賃貸契約してました」 「そこは近いのですか」 「いえ、距離にして2キロほど」

「2キロて、かなり不便ですな」 「はあ、青空ならすぐ近くにあったのですが、どうしてもシャッター付きが良いと云われ」

「ほう、じゃあそこも解約?」

「いえ、ガレージだけは4日まで待って欲しい。4日には明け渡すから。との事でした」

「もしかして河本社長の監禁はそこじゃないすか」 ヒロシが声を上げた。

「監禁?」 宇佐美社長がヒロシを見る。

「是非、案内くださいませんか。実は・・・」

佐々木は事情を説明した。 ・・・・・・・・・・・

「え!もし関係してるとすれば とんでもない事件に私らが加担してた事でしょうか」

若い社長の声がうわずった。

「まだこれと言う事件が発生したわけではないですけん。うちの社長の行方不明と関係があるのではと云うのは勝手な推測ですけん。また仮に関係したとしても貴方や宇佐美議員は何も知らず契約させられただけですよって、責任問題にまで発展すまい」 栗原が云った。

「どうも恐れ入ります。直ぐ案内します」 「じゃあクルマとってくるけん」 栗原が云うと、 「いえ、ライトバンですけどウチので案内します。少々、道が狭いし荒れてますけん」 女子事務員にファイルなど片付けさせ、立ち上がった。

そのガレージは駅前の反対側つまり山側の県道をかなり走った所にあった。人家も少なく寂しい場所にあった。 若社長は2キロと云ったが、結構長い距離を走った気がした。一応舗装はされていたが、土だらけのでこぼこ道を揺られること数10分。ようやく着いた。

田んぼの一角に5庫分の車庫が連なっていた。 屋根と側壁はコンクリート製の頑丈な作りだった。 山林側、一番奥が問題の車庫と宇佐美社長が指さした。

「ここは元々クルマの車庫というより、農家の農機具、山仕事の道具のためのガレージなんです」 「彼らはこのような場所を車庫に使うと」

「いえ、輸入品の一時倉庫として借りたい。そういう事だったので仕方なく」

宇佐美社長は合い鍵の束を取り出した。 しばらくガチャガチャ云わせていたが、ようやく一つを見つけた。

ガシャリ。シャッターのくぼみに手をかけ上へ一気に引き上げた。

「お!」

ヒロシが先頭切って駆け込む。 だが河本社長の姿はなかった。ただ、予想通り4台の単車が停めてあった。

「やはり。。。」 ナンバープレートは付いたままだったが、いずれも黒のラッカースプレーで塗装してあった。

御坊市や海南の連中から強奪した奴やろな」 栗原とヒロシが顔を見合わせた。 車庫の中は バイク以外は見事なまでに空っぽだった。

「4日まで解約は待って欲しい。と云うことは奴らガレージに舞い戻るのとちがいますか」 ヒロシが佐々木を見た。

(可能性は否定できないが、おそらくそれはないだろう。じゃあなぜ4日なのだ。用済みの強奪バイクの発見を遅らせるため?)

佐々木は自問自答した。4日・・・そういえば確か・・・

「!」

4月4日。熊野古道宗教サミットに合わせ、某国、宗教団体の法王が和歌山にやって来る。そんな内容の新聞記事を思い出した。

その某国法王は中華人民共和国により追放を受け、I国に亡命中の身分だ。 だが、世界の宗教家による信頼と人気は絶大で 毎年のように招待を受け全世界に講演活動に飛び回っている。 ただ。。政府の要人とは異なり警備体制など手薄だ。ニュースで時おり見かけるが いつもハラハラする。

「!!もしや」 一瞬、何かが佐々木の頭の中をよぎった。

「栗原さん、今までのことや今後について相談したいことが・・」

「ああ、ワシも是非、いったん白浜に帰りますか」

「あ、少し紀伊田辺の図書館で調べたい事がありますので」

「じゃあ、とりあえずワシも」

「自分は 海南市や御坊の子らに、連絡入れます。ここで待ってますわ」 ヒロシが云った。

「万一、奴ら舞い戻って来たらどうよ」 栗原が心配した。 「海南や御坊から駆けつけるのて、ヘタしたら二時間はかかるのでは」 「はは、その時はその時の事で、自分は平気ですから。ただ、この近所何もないすね」 「あのカーブを曲がると自動販売機があります」 宇佐美社長が指さした。

「缶コーヒさえあれば充分ですけぇ」

「私、一旦事務所に戻りますが 用事を済ましたらまた来ます」

「あ、宇佐美社長さん、お忙しいでしょうから。私らが迎えに来ますよって」

「バイクの確認と引渡しが済んだら 携帯に連絡するように」 佐々木が言った。 ヒロシを残し、宇佐美企画のライトバンに3人が乗り込み、走り去った。

※ 山中を歩くこと 小一時間。浩二は喉の渇きと空腹に耐えかね、 河の音がする方に降りた時だった。

! 足跡がくっきりと残っていた。

そこまでは枯れ草に覆われた樹海の中だったが、河の周囲は前日の雨でぬかるみ、靴跡が残ったのだろう。

足跡も同じように河に向かい、そして戻ってきている。

(奴だ) 男も同じように 水を求めたに違いない。

雨水の影響もなく 透き通る河だった。 ザブン 両手ですくい、先ず、顔を洗った。 二三度繰り返した後、両手ですくい、口に含む。 葉っぱの香りがどことなく漂った。

(美味い!)

初めて経験する河の味だった。

さてと。。。

水だけで とりあえず腹を満たし、来た道を駆け上がった。

野鳥のざわめきが 心地よくさえずっていた。

つづく

※ 当記事は フィクションですので 万が一、実在するいかなる個人、団体、地名とも 一切の関係は ございません

(-_-;)