小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 Ⅲ 断崖編 その41

2010年4月2日 午後2時40分 ワールドアドベンチャー 観覧車内 佐々木とヒロシの乗ったゴンドラはまもなく頂上に差し掛かかろうとしていた。

佐々木は、高度が上がるにつれ、徐々に視界が開けてくる園内を凝視した。 何かテロにつながる可能性のモノはないかと観察していたが、これまでのところ発見できなかった。 (当然見落としもあるだろう。あと1周ぐらい乗るべきか)

勿論、田辺署に委ねた今となっては自分達が今更どうのこうの心配する必要などなかった。 その事に気づき、 (ワシの困った習性や)反省した。 だが、

「園内だけじゃなく、海とかも一望ですね」

ヒロシが云うように、頂上に近くなると海までの視界が広がった。 沖や、湾を行き交う漁船やヨットが肉眼でも見える。 (しかし、この位置から船を狙う事など・・・)

ふと考えた時、轟音が響いた。


ゴンドラの窓から日本航空小型機ボンバルディアの着陸光景がほぼ真横で見えた。

「え!案外近いっすね」 ヒロシが声を上げたが、佐々木とて同じ驚きだった。

空港とワールドアドベンチャーとの位置関係。 (しまった。事前に確認していたつもりが、見落としたか) あわててショルダーバッグから地図を取り出した。だが観光道路地図のそれは、ランドマーク印と空港を表す飛行機マークしか掲載されていない簡素なものだった。

(やはり、見た限り地図上では結構離れている)

確かに、佐々木の持つ地図ではお互いの記号は離れていた。だが離れて記載されているのはそれぞれの記号の位置であり、各本部の所在地、例えば空港なら管制塔、ワールドアドベンチャーなら事務局本部の位置など、それらお互いの位置が離れているに過ぎない。 佐々木の道路地図では滑走路の位置や観覧車の位置など、詳細には掲載されていなく、見落とすのも無理はなかったと云える。

(距離にして3から400メートルてとこか。こんなに、近いとは。。ただ近いと言っても、おおよそ時速250から300キロの速度で着陸してくる旅客機。観覧車の横を通過するのは一瞬の出来事。この位置から狙うには幾らなんでも無理がある)

それに観覧車は回り続け、停止してくれはしない。

そこまで考えた時だった。猛スピードで着陸し、視界から消えた筈の旅客機。 降り立ったその滑走路を、旅客ターミナル到着口に向けゆったりとした速度で、再び現れた。自転車並の速度だ。

佐々木は「あっ!」と声を上げた。 (この小さい空港の滑走路。着陸したばかりの滑走路。旅客ターミナルに向け、逆戻りしてくるのか)

観覧車は頂上をとっくに過ぎ、地上に近づき始めていた。 旅客機もすでに視界から消え始めていた。 (単なる思い過ごしだったか)

ヒロシにその事を云うと、

「ですが、もし仮にこの観覧車、視界が充分な位置で都合よく停止してくれるとすれば可能性があるじゃないすか」

(こやつ、思考が柔軟。ワシも見習わねば) 「確かに。ただ、いくら近いと言っても400メートルの距離。。。あ、ロケット弾。。。か」

「おまけにゴンドラの窓。ここの場合、お誂え向きに通風のため穴が開いてるっす」 ヒロシが天井近くを指さす。

「航空機を狙える可能性は充分あり。ちゅう事か」

直径60メートル程もある、大観覧車。おおよそ20分ほどを擁し、ようやく地上に近づいた。

「お疲れさまでした」 胸に平本と書いた女性スタッフが出迎え、ゴンドラの扉を開ける。

「観覧車は、ここで操作してるのかね」 乗り口横の小さな建物を指しながら佐々木が尋ねた。

次のゴンドラを迎える体制に入っていたそのスタッフは、背中を向けたまま 「あそこは単なるスタッフルームです。園内施設の操作はずっと離れた司令室で、コンピューター一元管理での操作でございます」

(ここもハイテク、遠隔操作か)

「なるほど、もしや室井君はそこの担当か」

「え、室井をご存じなんですか」 一瞬、佐々木を振り返った。 が、次のゴンドラを迎える体制のため再び背中を向け 「いえ、室井も私らと同じ乗務係りです。本日は休みをとらせて頂いてますが」

「なるほど、ここでの操作は無理か」

(やはり何が何でも室井と結びつけるのは無理がある。推測と云うより、勝手な妄想だったか) がっかりすると、

「でもお客様。万が一、緊急の時は私らも停止させる事は出来ます」

「え!」

「まだ使用した事はございませんが、緊急停止ボタンが」 少し誇らしく、指をさした。

スタッフらの立ち位置、すぐ横の柵の手前に、赤く金属性のBOXが見えた。 扉を開けるとそこに、停止ボタンがあるのだろう。

「なるほど。。。万が一に備え安全管理体制は十分と言うことやね」

「はい、ありがとうございます」

いつまでも邪魔をするわけに行かない。 礼を告げ、佐々木らは観覧車を後にした。

・・・・・・

「ちゅう事や、着陸の滑走路を逆戻りし、ゆったり現れる旅客機を見、はっ とした」

「室井て奴の所在。至急に調べる必要がありますね」 ヒロシがうなづいた。

その時佐々木の携帯が鳴った。

「高城社長や」 ヒロシを振り返ると受話ボタンを押した。

「・・・・・・」 「あ、そうですか。はい、承知しました。ご苦労様です」

「出張が延び、高城社長がやって来られるのは4日やそうや」 携帯を切ると、告げた。

明日3日、河本の退院に会わせ坂本や、中岡らともに高城も白浜で合流する事になっていた。 栗原達も交え、慰労会を兼ねた退院のお祝いの宴を開いてくれる事になっていた。 「白浜ホテルへは、4日に繰り延べで、坂本常務から手配済みらしい」 「じゃあデライ・リマ法王と同じ日っす」

「まさか飛行機の便は違うと思う」

この時点では、佐々木は軽く考え、ヒロシにそう応えた。

つづく ※ 当記事は フィクションですので 万が一、実在するいかなる個人、団体、地名、国名とも 一切の関係は ございません

(-_-;)