小説の杜

旧 kazami-k 小説の杜から越して来ました

狂二 Ⅲ 断崖編 その34

2010年4月1日 午後1時すぎ

浩二は、耳の片隅で聞こえたバイク音の方向を頼りに、山を下った。

山から湧き出た清流は蛇行しているのか、一端遠ざかっていた筈なのに、再び川べりに出た。

バイク音の方向は、この先、清流からいよいよ離れてしまう。 最後の小休止と、近づくとまたもや靴跡を見つけた。

(やはり、間違いない)


顔を洗っていると、再びバイク音が聞こえてきた。 先ほどより、着実に近付いていた。

(しかしまた、なぜ?行ったり来たり)

雲一つない空を見上げた。 太陽はほぼ真上にあった。 (陽が沈むまでには・・・)最後の水を口に含むと、再び歩きだした。

※ 佐々木は、ヒロシの携帯を呼び出した。 「あ、どうもお疲れです」 「バイクの連中との合流はまだか、えらい遅いやないか」

「どうも、先ほどやっと連絡ついたんですが、彼ら道に迷った様なんす、田辺を通り越して、かなり南の方の山中に迷い込んだ様ですわ」

「じゃあまだ時間かかるのぅ」 「さっきつながった携帯では、もう2、30分ちゅうとこなんすが。いまいちこちら方面の地理に不得手な様子で。おまけに携帯の電波も途切れ途切れで」

「わかった。じゃあ一つ用件済ましてから、そっちへ行くから。腹も減ったやろ」 佐々木は携帯を胸ポケットにしまった。

「栗原さん、ヒロシの方はまだ時間がかかるようなんですわ。迎えに行く前、一つトラックを借りたという室井と言う男の家、行ってみようと思うのですが」

「ああ、ワシも住所確認したけど、歩いて行ける距離や」 「じゃあ、その前に一度電話してみます」 レンタカー会社から聞いた連絡先は自宅になっていた。 だが (・・・・・・) 「やはり留守電になってますわ」 携帯をしまい、歩きだした。

栗原の案内で、駅前を抜け、東に向かって坂を下った。 潮の香りを含んだ風がどこからともなく、まとわりついた。

「駅前から少し歩くだけで、人通りは寂しいですな」 佐々木はつぶやくように云った。

「これでも開けた方なんやが、それでも和歌山市内やさらに、大阪とは比較にならんです」 栗原が応える。 「大阪へは、よく来られるのですか」

「去年の今頃、仕事の関係で大学病院へ3ヶ月ほど通いました」

「ほぅ、冷凍倉庫と関係が」

「説明を始めると長くなりますのやが、平たく云えば、ワクチンの保存ですわ」 「なるほど」 佐々木は栗原の一面をかいま見たように思った。

やがて、 電柱に住居表示のプレートが貼り付けてあった。田辺市新若葉町5丁目。 頭に叩き込んだ番地が現れた。 電柱を曲がると、ひょろ長いマンションが見えた。

「多分あれでしょう」栗原が指さした。

周囲は桜の木に囲まれていた。3分咲だった。満開にはさぞかし壮観だろうな並木が続いていた。 樹の下には数台の乗用車が停めてあったが、例のトラックは停まっていない。

玄関は、今流行りのセキュリティーが完備していた。

外から覗く限り、管理人は置いていないようだった。また、セキュリティーを解除させ、中まで捜査を依頼するには それなりの理由と証拠が要る。

「仕方ないですな。ま、今日は自宅の確認と云うことで」 引き返す事にした。 ひょろ長い外観。窓とベランダは各階に2個づつ。

「典型的なワンルームマンションですな」 「都会的な雰囲気、隣家との近所つきあいも薄いでしょう。隠れ家にもってこいと言えますな」

「室井君の勤務先に電話してみます」 佐々木はみたび携帯を取り出した。 「確か人材サービスでしたのぅ、派遣先が別にあるかも」 栗原が云った。

「・・・・人材サービスです」 「室井さんをお願いしたいのですが」 「どちら様で」 「あ、はい、紀伊田辺レンタカー営業所の者です、少々お伝えしたい事がありまして」 咄嗟にレンタカー会社の名を借りた。

「室井の派遣先は アドベンチャーワールドですが、3日まで休暇の届けが出てます」

「あ、そうですか。で、アドベンチャーワールドて、コアラのいるあの動物園の」 「はい、そうですが・・・」 「4日、日曜の届けはどうなってますでしょうか」 「4日には出勤の予定ですが。あのぅそれが何か」 「あ、いえ、どうも失礼しました」

レンタカー営業所の所員としては不自然な質問だった。 「私としたことが、ボロが出そうになりましたわ」 携帯を仕舞いながら、冷や汗をぬぐった。

「やはり派遣の会社でした。で、彼の派遣先はアドベンチャーワールドですわ。ただ4日は今のところ、出勤らしいです」

「え、そうですか、何やら、頭が混乱しますわ。そろそろ警察への届け、必要ではないやろか」 栗原が云った。

「もう少し固まってからの方が。。それと高城社長や坂本常務の意向も確認しないと」 「確かに・・・」

坂本の口ぶりでは、田嶋総業、西川副社長の耳にはまだ入れたくない案件だ。 栗原の顔が曇った。

※ 浩二は、ようやく人の手が入っていると思われる杉木立に出た。 電動ノコギリで切り倒された木の切り株が点在している。間伐材の伐採あとだろう。

だが、本日は電動ノコの作業音は聞こえなかった。

やがて林道に出た。が、舗装はされていなく、でこぼこ道が続き、細く狭い。 オフロードバイクならまだしも、“族系”バイク集団が走るには無理がある。 この道じゃないな。

耳を澄ませると、遠く 電車の音が聞こえる。 白浜へ出発前、にわかに勉強した和歌山の地図を頭の中で再現した。

海、山、電車。

南紀、それも白浜より南の方の地形と重なりあった。

太陽の位置を確認し、林道を北に歩いた。

やがて ついにアスファルトの道に出る。

騒々しい怒号がカーブの向こうから聞こえた。

山並みに曲がりくねった道路を急いだ。

先の方に対向車を交わす為の広場があり、そこに何十台ものバイクが停めてあった。 騒ぎの元らしい、数十名の男たちがぐるりと囲いを作っている。

昼間から喧嘩か・・・

築港時代 多美恵の勤めるコンビニにたむろしていた”族”とやりあったのを思い出した。多美恵と親しくなる前の話だ。

一人対20名ほど。だが奴らは凶器さえ持たなければ ただの子供だった。

とるに足らない一戦だった。 「店の前でちょろちょろするんじゃあないぞ。迷惑なんじゃ」

「はい、すんません」 その後 少年等はおとなしくなり、店の周辺では“たむろ”しなくなった。

(あの件は 多美恵にはまだ話していなかったな。多美恵、今日には連絡取れるだろうか)

白浜まで 乗せてもらうとすっか。

集団に歩み寄った。

お!

バイクの集団が取り囲んでいた中に、追いかけていた“あの男”が居た。

男の傍らには、既に5人の少年が倒れている。 早や殴り倒したようだ。

取り囲んだ人数を数えた。まだ30名以上はいる。 彼らは いわゆる戦闘服と呼ばれるツナギなどは着込んで居なかったが、単なるツーリング仲間ではないのは明らかな形相だった。 だが良く見ると、 顔は子供のような幼さが残っていた。

ナンバープレートを確認すると、海南市御坊市の文字が見えた。

「何やってんだ」

「よお、ようやく来たか」 男が浩二をみて笑った。

バイクの連中が振り向く。

「こいつの仲間かよ、やばいな」

仲間かよ と云われ浩二は噴出しそうになった。

確かに・・・ 二人とも3日程 風呂も入らず、真っ黒な顔は無精ヒゲが伸び放題だった。 おまけに二人ともブルーシートを小脇に抱えていた。

「やばいものか、ついでにやってやろうじゃん」 口々に少年等が叫ぶ。

(おいおい、友好的に、平和的に話し会おうぜ、腹が減って、フラフラだぜ)

だが、すでに5人ほど殴り倒されたとあれば、平和的交渉には無理があるのは 火を見るより明らかだった。

「やれやれ」 思わずつぶやいた。

つづく

※ 当記事は フィクションですので 万が一、実在するいかなる個人、団体、地名とも 一切の関係は ございません

(-_-;)